グリッタリング・グリーン
「エマ、版権は1年間、限定メディアじゃなかったのか、2年オールメディアだって言ってきてるぜ」
「向こうが思い違いしてるだけよ、私が話しておく」
返事をせずに、葉さんは荒い動作で椅子に身を投げ出し、見るからにイライラと煙草に火をつけた。
エマさんが、そっとため息をついて。
こんな時に、とつぶやいた。
週刊誌の、ちょっとした記事に、慧さんが載った。
別に彼がすっぱ抜かれたわけじゃなく、デートのお相手だったモデル上がりの女優が張られていたみたいなんだけど。
運悪く一緒にいるところを撮られて、慧さんの名前も出た。
目次に載るほどでもない、小さなつまらない記事。
普段ゴシップ誌なんて決して読まない葉さんがその記事に出会ったのも、不運としか言いようがない偶然で。
たまたまそれが、スタジオに積まれていて。
たまたま空いた時間に、手に取ったのだ。
それでもいつもの葉さんなら、またあのバカ親父が、くらいに受けとめて、たいして気にしなかったと思う。
でも今回は、タイミングが悪かった。
『こんなことがしたくて、母さんを加塚さんに押しつけてたわけか?』
独り言みたいに、静かにつぶやいて。
葉さんは二度と、雑誌の積まれたコーナーに寄りつかなかった。
それが、三日間のハンティングの、初日の夜の出来事。
二日めの今日、葉さんは荒れに荒れて。
スタッフのミスを怒鳴り、手違いに声を荒げ、ただでさえ持て余すほどだった爆発的なモチベーションのコントロールを完全に失い。
ついにエマさんに、スタジオを追い出された。
「あなたがいると、現場の空気が悪くなる」
頭を冷やしてきて、という指示に、葉さんは悔しそうにするでもなく、不服そうにするでもなく、無言で出ていった。