グリッタリング・グリーン
大声を出した私を、葉さんがきょとんと見た。

抵抗がないのをいいことに、暴れ放題だった身体をぐいぐいと押してベッドに座らせる。


包帯から力なく出ている指が、私をぞっとさせた。

同時にそれは、勇気をくれた。

エマさんの決定を伝える勇気を。


葉さん、と呼びかけると、素直にこちらを見る。



「慧さんに、お願いしましょう」



意味を飲み込むのに少しかかったらしく、葉さんはしばらく呆然と私を見つめていた。

やがて、その瞳が狼狽に揺れた。



「ないだろ…そんな」



何言ってんの、と見あげた先のエマさんは、ゆっくり首を振る。



「ちょうどいいのよ、監督とも気心知れてるし、最初の企画を知ってるし、あなたのことも理解してる」

「ふざけるな!」

「葉さん!」



暴れる葉さんにしがみついて叫んだ。



「他にどうしようもないんです、ちゃんと治療しなきゃ、元通りにならないかもしれないんです」

「誰が親父の助けなんか借りるか、それなら指が動かなくなったほうがマシだ!」



気づいたら手が出ていた。

けれど人を叩いたことなんてない私は、変なところを打ってしまったらしく、葉さんが耳のあたりを押さえてうずくまる。

どこ殴ってんだよ! と罵倒されても、負けるわけにいかなかった。



「いい加減にしてください! ほんとに手が動かなくなっても、同じことが言えますか!?」

「動かなくなったら考えるよ!」



声を荒げる葉さんを、エマさんが冷静に遮った。



「暴れても無駄よ、もうマサキで進める準備をしてるわ」

「冗談だろ!」

「じゃあ、あなたの都合で遅らせる? このタイトスケジュールでそんなこと、できるわけないことくらいわかってるわよね」


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