グリッタリング・グリーン
エマ、と呼ぶ声が、かすれてる。

琥珀色の髪が、さっとひるがえって消えた。



「エマ!」

「葉さん、お願いだから安静にしてください」

「俺じゃなくて、いいなら」



右手がベッドのヘッドボードを殴る。

壁越しに響くヒールの音を追いかけるように、葉さんが叫んだ。



「結局、俺じゃなくていいなら、俺なんて使うな!」



続けざまに殴ろうとした右手を、必死の思いで押さえた。

葉さん、葉さん。


彼なりに葛藤のあった企画だったろうに。

それでも、やると決めて臨んだのに。


痛いのが、動かないのが、私だったらよかった。

代われるものなら代わってあげたい。


握りしめた手が震えてる。

葉さん。


その時、廊下で足音がして、誰かが慌ただしく駆け込んできた。



「葉!」



心配そうな声に、葉さんがぱっと顔を上げた。

目をいっぱいに見開いて、加塚さん、と小さく呼ぶ姿が、あまりに心細げで痛い。


駆け寄る部長に、子供みたいに顔を歪めて。

葉さんは抱きしめられるまま部長の身体に顔をうずめて、自由の利くほうの腕でぎゅっとしがみついた。



「葉、泣くな」



院内を走ってきたんだろう、部長は肩で息をしながら、葉さんの頭や背中をしきりになでた。

休日らしい、見たこともないくらいラフな格好で、泣くな、とくり返して力強く抱きしめる。



「悔しいよな」



穏やかな、温かい声。



「悔しいよな、お前は自分でできること、やらずに済ますの大嫌いだもんな」



わかるから泣くな、と言い聞かせる部長も、見るからにつらそうで。

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