グリッタリング・グリーン
「だけど葉、お前の腕に何かあったら、あの場にいた全員が、お前以上に自分を責めるよ」
そんなの嫌だろ、と優しく頭をなでながら、葉、と部長は何度も名前を呼んだ。
「慧を信じよう、あいつはお前のやりたいことをわかってる、絶対になんとかしてくれるよ」
葉さんが首を振る。
葉、と部長が弱ったように覗き込むと、葉さんがようやく涙で濡れた顔を上げて、わからないの、と震える声で訊いた。
「俺は腕の一本くらいなくなったって、俺のだって言えるものを作る自信がある」
だけど、と訴える顎から滴が落ちる。
「だけど、親父の手が入ったら」
「葉…」
部長が小さな子にするみたいに、涙で額に張りついた髪をかき上げてあげると、葉さんの右手がその腕をきつくつかんだ。
「それはもう、俺のものじゃない」
誰もがこんな情熱を、秘めているものなんだろうか。
すべてのものが、こんな激しい想いのもとに作られるものなんだろうか。
また胸に顔をうずめてしまった葉さんを抱きしめて、部長はひたすらその頭をなでてあげていた。
「俺を誰だと思ってんだ」
はっと葉さんが身構えるように部長から離れた。
診察室へ続くドアに、慧さんが寄りかかって立っていた。
「個性くらい好きに消してみせるよ。誰がお前の作品なんぞに、俺の味を足してやるかって話だ」
「…何しに来た」
瞬時に鋭い光を帯びた目を意にも介さず、慧さんは持っていた資料をばさばさと振ってみせる。
「60、30、15秒の3パターンを、お前たちは、ただの尺違い以上のものにしようとしてた、明日は役者が合流してリハ」
エマさんが渡したものだろう、分厚い紙束の中ほどを開き、ちょっと眺めてから叩いた。
「お前の懸案は、モーショングラフィックと役者のシンクロだな、それとピンのプログラムをセット上で調整すること」
他、役者の衣装とライティングの相性、カメラワークと振付の再チェック。
過密なスケジュールの中で、この三日間をフルに使って葉さんがやろうとしていたであろうことが次々挙がる。