グリッタリング・グリーン
「何かいるものがあれば、さっきのコンビニで買ってこうと思って、訊くつもりだったのに」
「わあ、そんな」
「びっくりしすぎて、考えてたこと全部飛んじゃった…」
お見舞いなのに、手ぶらだよ、と空っぽの両手を見せるのに、思わず笑った。
半袖のシャツから出ている左腕は、上腕から手の甲あたりまで、黒いサポーターみたいなものに巻かれている。
「ギプスとか、ないんですね」
「プレートが入ってるからね、一応、ブレースっていうの? このあたりに固定具も当ててるよ」
葉さんが指した、肩のあたりをさわると、確かにコンコンというプラスチックみたいな硬さがわかる。
なくてもいいのに、葉さんがすぐに腕を動かしすぎてしまうので、つけろとお医者さんに指導されたらしい。
思っていたより、全然仰々しくない。
サポーターも、単に外からの刺激が金属プレートに響いて痛むことがあるので、保護のために巻いているだけなんだそうだ。
よかった、ほとんど変わりない、葉さんだ。
「座っててください、アイスティとアイスコーヒー、どっちがいいですか?」
「生方の飲みたいほうで」
じゃあアイスティにします、と壁の棚から茶葉の入ったキャニスターをとると、葉さんが感心したように言った。
「女の子の部屋って感じだね」
「子供部屋みたいってよく言われるんですけど」
「そうなの? みんなこんな感じなんじゃないの」
どうだろう、友達の部屋は、シンプルだった気がする。
ここも最初はそこそこシンプルだったんだけど、好きなように家具や小物を集めていったら、すっかりポップになってしまった。
ふーん、とラグに腰を下ろして見回す葉さんが、本当に興味津々ぽいのが微笑ましい。
その前に、この部屋に葉さんがいるという光景が、ものすごく不思議だ。
「こういうほうがイメージどおりで、いいけどなあ」
「落ち着かなくないですか?」
「女の子の部屋なんて初めてだもん、どんなだって落ち着かないよ、あれ飾ってくれてるんだね」
木のクロスピンで壁に飾った、スイス土産のポートフォリオが目に留まったらしい。