グリッタリング・グリーン
50分には、約束の場所に着いた。
というのも、場所の指定がやけに細かく、もう日が落ちている時刻でもあり、時間に余裕を持って行かないと心配だったからだ。
駅から少し歩いた広場の、中央からひとつ南に寄ったリング状のベンチで、北側を向いて立ってろと。
…罰ゲームみたいな内容なんだけど、嫌がらせじゃないよね、これ?
言われたとおりに立つと、広場の奥にあるガラス張りのショッピングビルが目に入る。
箱型の巨大なビルは、それ自体がプレゼントみたいにカラフルにライトアップされて、そうか、今日はクリスマスイブだと気がついた。
どうりで、とついひとりごちる。
待ち合わせてディナーにでも行くんだろう、カップルの片割れらしき男女やふたりづれで周囲はいっぱいだ。
むなしいから早く来て、と心の中で葉さんに話しかけた。
葉さんは、こんなところになんの用事で来てるんだろう。
あの居心地のいいアトリエで、椅子の上に丸まって絵を描いているイメージしかなかった彼は。
意外といろいろとアクティブに生きているらしいことを、最近知った。
どんな生活なんだろう、イラストレーターって。
プレッシャーとか世間の評価とか、そういうものとどう折り合いをつけて生きているんだろう。
やめたくなることとか、ないんだろうか。
足先が冷えてきて、ブーツを踏み鳴らす。
指定の5分前はとっくに過ぎて、もう18時が目の前だ。
ねえ、葉さん。
葉さんはどんなことを考えてイラストレーターになったの?
絵が好きだったから? 得意だったから?
それだけでなれるものでも、ないですよね。
葉さんは、いったいどんなことを考えて。
あの美しく生命力にあふれる絵を、描いてるの?
突然、あたりが真っ暗になった。
停電かと思って見回すと、暗いのはこの広場だけだった。
敷地内のライトがすべて消えている。
木立にまぎれたスピーカーから流れていた音楽も突然やみ、しんと静まり返る。
人々が何事かと訝ってざわつきはじめた時。
シャン、という鈴の音と共に真っ白な光が視界を満たし、さっきまで何もなかったはずの広場の中央に、白銀に輝く巨大なツリーが姿を現した。