グリッタリング・グリーン
『こんな金額、聞いてないって言ってるの』
申し訳ございません、とほとんど顔を会わせたことのない相手に、電話口で頭を下げた。
外出中の先輩社員に頼まれて、請求書を代わりに送ったら、瞬時に連絡が来たのだ。
何か、情報の行き違いがあったらしい。
いくらで請求する話になっていたのか尋ねると、びっくりするような額が返ってきた。
「は、あの、確認いたしますので、手違いのないよう、メールでいただいてもよろしいですか」
『そんな内容のメールが監査で見つかったら、指値って言って、こっちが捕まっちゃうんだよ、経理のくせになんで知らないの』
経理じゃなくてすみません、と悲しくなりながら電話を切ると、部長席から声がかかる。
「どうしたの、大丈夫」
「それが…」
今のやりとりを話すと、加塚部長が、眉根を寄せた。
思い当たるところがあるらしく、腕を組んでじっと何事か考えている。
やがて、パチパチと短いメールを打つと、おもむろに席を立った。
「あの、私、どこかにご説明に上がったほうが…」
「今の件は忘れていいよ、生方のミスじゃないから」
「部長は、どちらへ?」
首をかしげる私に、にこりと微笑んで。
喧嘩売ってくる。
そう言い残して、出ていった。
「うっわ、かっこいいー」
「大騒ぎだったんですよ」
「なんかざわついてたの、それかあ」
外出を夕方にしておけば、と未希さんが悔しそうにする。
昼間の騒動は、結局、ふたつの部署間のもめ事にまで発展し、いまだ解決を見ていない。
山のような校正で酷使した目元をもみほぐしながら、未希さんが息をついた。