グリッタリング・グリーン
「第二の部長と犬猿の仲って、本当なんだ」
「そうみたいです」
加塚部長には、隣の部の部長と、あまりうまくいっていないという話がある。
少し年上の、一年ほど前にWEB制作会社から引っ張られてきた人で、そんな流れで来ただけあって、優秀だ。
でもいまひとつ人望がない。
「WEB系の会社ってドライだから、うちみたいに誠心誠意顧客に尽くしますって姿勢、合わないのかもね」
「今回の発端も、そこらしくて」
ふたつの部署は、専門分野こそ違えど、取引先はほぼ重複している。
今回私がさんざん怒られてしまった取引先も、双方の部署と取引のある会社さんで。
要するに、隣の部長が、両方の請求を勝手に合算して値引きし、それをこちらに伝え忘れていたのだ。
「忘れてたのかなあ、わざとだと思うけどね、私は」
「未希さん、しー」
おっと、と口をつぐむ。
社内でも確かにその見方が主流で。
きっとそれが事実だからこそ、加塚部長は、激怒した。
『私に何をしてもいいですが、取引先との信頼関係にひびを入れ、さらに私の部下の信用まで傷つけるような真似は、やめていただきたい』
『私はその取引先の利益を第一に考えて、先方の望む額で手を打っただけだよ』
『担当者の頭越しにことを進めて、混乱を招くのが先方の利益?』
会議室に耳をくっつけていた社員から聞くに、こんな感じのやりとりが延々続いていたらしい。
温厚な加塚部長が、声を荒げるなんてめったにないことで、噂は瞬く間に職場を駆けめぐった。
「そういえば荒れたとこ、見たことないもんね、騒ぎがあっても、たいてい穏やかに鎮める立場なのに」
むしゃくしゃしてたのかなあ、と校正紙をぺらぺらめくる未希さんに、そうかもしれません、と心の中で応えた。
表面上はいつもの部長だけど、やっぱりなんとなく、余裕のない状態が、こうして垣間見える。
葉さんと話したい気持ちを、ぐっとこらえた。
葉さんは葉さんで、今、すごく大変な時で。
きっと誰にも言えずに耐えていることが、たくさんある。
そんなところに、さらにこんな話、持ちこめない。
次会えるのは、いつだっけ、とぼんやり考えた。