グリッタリング・グリーン
こんな格好もできるんだ。

この間、試写会に行った時の恰好も、おめかしって感じで可愛かったけど。

今日の葉さんは、いかにも新進気鋭のデザイナーという雰囲気をかもし出していて、照れてしまうくらい、かっこいい。


通りかかったウェイターのトレイから、ひょいとワイングラスをとると、乾杯、と葉さんが微笑んだ。

脇のテーブルに置いていた私のグラスに軽く当てて、ジュースみたいな無頓着さでごくんと飲む。

強くないことを知っているだけに、はらはらする。



「葉さんにも招待状が?」

「いや、俺のお世話になった人が何人か来てるって聞いたから、潜りこんだの、親父の金でタダ酒飲めるし」

「費用は代理店さん持ちだと思いますよ」

「なんでもいいよ、俺の金じゃなければ、ねえそれ、もらっていい?」



どうぞ、と言い終わるか終わらないかのうちに、私が持っていたお皿から、キッシュを手づかみで口に運ぶ。

お腹がすいていたらしく、噛みました? というスピードでぺろりと食べると、ワイン片手にきょろきょろしはじめた。



「チーズは奥のテーブルよ、わりと種類あったわ」

「ほんと」



嬉しそうな声をあげて、弾むような足どりで、ビュッフェテーブルに行ってしまう。

スキップでも始めそうな姿を見送った。



「葉さん、チーズがお好きなんですか」

「その時々で、雰囲気とお酒に一番合うものを欲しがるのよ、日本酒を飲ませれば、塩辛とか探しはじめるわよ」




そうなんだ。

そういえば、葉さんの好みなんて、全然知らない。

空のお皿を手に、つい考えこんでしまった私を、エマさんが首を傾けて、のぞきこんだ。



「わざとやってるのよ」

「え?」

「私のほうが葉を知ってるわって、わざと知らせてるの」



理解したか確認するみたいに、じいっと目を見る。

色の薄い瞳にそうされると、戸惑う。

突然に、話題が核心に触れて、情けなくも動揺した。

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