グリッタリング・グリーン
「あの、わざとって、どうして…」
「さあ、女の性かしらねえ」
そんなあ。
だいぶ慣れたけど、けっこうきついんですよ。
私はよほど情けない顔をしてたらしく、冗談よ、と噴き出されてしまう。
「単に、あなたがたをかき回そうと思ったのよ、じれったかったから」
「私がですか」
「ふたりとも。ティーンエイジャーみたいなんだもの、葉は自分のことしか考えてないし、あなたはぐずぐずしてるし」
だって、と言いたいことをあれこれ思い浮かべているうちに、ぐずぐずってこれか、と気づき、がっくり来た。
エマさんがくすくすと、綺麗な脚を交差させた。
「でもそうね、あながち冗談とも、言いきれないかも」
「えっ」
「いつまでも、向こうは私を忘れられないはずだって、どこかで思っちゃうのよね」
いかにも女の性でしょ、と軽く肩をすくめて。
返事らしい返事をまったくできずにいる私を、愉快そうに見つめる。
「男の子にとって、最初の相手は特別だって聞くし?」
うまく剥いてあげる、という声が脳裏をよぎった。
つい顔がほてって、自分の想像力が、ほんとに嫌になる。
エマさんのほがらかな笑い声がした。
「ただの俗説よ」
「あの、エマさんは実際、どうなんですか、あの、今も」
私? と目を見開いたところに、葉さんが戻ってきた。
「はいこれ、生方のぶんね」
さっきのお返しのつもりか、私の手からお皿をとり上げて、代わりに色々なフードが盛られたのを持たせてくれる。
ウェイターさんみたいに、片手にふた皿載せていた彼は、ついでに、ともう一方の、チーズの載ったほうまで私に持たせた。
これじゃ私、食べられません、と訴えかけて気づいた。
葉さん、左手でお皿を持てないんだ。
何か言おうと口を開いたところに、はい、とフォークで、エビを押しこまれる。
そして当然のように、私のぶんと言ったはずのお皿から、自分も食べる。
エマさんが笑った。