グリッタリング・グリーン
「私、もう行くわ、ねえ朋枝さん」
「は、はい」
「徹底的に初期教育をしたから、そこそこすばらしくお相手するはずよ、忘れてなければね」
ぐいと葉さんの肩を押して、去っていく。
途中、知り合いを見つけたのか、ひらりと一度手をひらめかせて、ガラスドアの向こうに消えた。
「俺の話?」
きょとんと私を見る葉さんに。
とてもじゃないけど、返事できなかった。
「嬢ちゃん、悪い、ほっぽらかしちまって」
「いえ、お疲れさまでした」
いろんな人にもみくちゃにされて、慧さんがくたびれた様子で現れた。
プロモーションの成功を祝って、グラスを合わせてから、私の横にいる葉さんを目にとめて、ふんと笑む。
「久し振りじゃねえか、どうだったんだ、撮影は」
「どうせティムからも聞いてるだろ、うまくいったよ、おかげさまで」
謙虚な言葉に拍子が狂ったのか、慧さんが目を丸くした。
「まあ、たまには親父をありがたがれよってことだな」
「よく言うよ、俺のコンテと、明らかに違う箇所がひとつだけあったぜ、読み間違えたんだろ」
「えっ、マジか」
「親父もついに老眼か、今後は労わってやるよ」
薄情に口の端を上げる息子を殴っておきながら、慧さんが心配そうにする。
「で、どうしたんだよ、そこ、間に合ったのか」
「それはそれで面白かったから、そのまま生かしたよ」
「そ、そうか」
明らかにほっとした様子なのを、少し笑いながら、空だぜ、と葉さんが慧さんのグラスを指した。
「なんか持ってきてやろうか」
「満足に手も動かせねえ奴が、何言ってやがる」