グリッタリング・グリーン
てめえ人の厚意を、とまたつまらない言い争いが始まりかけたところに、葉、と呼びかける声がある。

いつもより少しドレッシーに、黒いスーツに黒いワイシャツで現れた加塚部長は、葉さんに向けて、溶けそうに優しく笑いかけた。



「久し振りだな、手は? 痛み、ないか」



葉さんは、うん、と笑って、部長が頭を抱き寄せるのを、くすぐったそうに受け入れる。

えーオホン、みたいなわざとらしい咳払いが、ふたりを邪魔した。



「俺を無視すんな」

「いたのか」



傷ついた顔をする慧さんを、部長が笑う。



「冗談だ、招待ありがとう」

「お前がいなかったら、ここまでの成功はなかったよ」

「いい酒出せよ」

「そう来ると思って、表に出さずに置いてあるんだ」



悪巧みでもするような気配で、ふたりがテラスに出ていくのを、葉さんと見送った。



「仲直りしたんでしょうか」

「親父にいちいち腹立ててたら、きりがないって、わかってるんじゃないかな」



長いつきあいだしね、と肩をすくめる。

とりあえず、よかったよかった、と思ったんだけど。


その平穏は、長くはもたなかった。



ちょこちょこ挨拶に来る人に対応する葉さんと、食べて飲んで、お腹も満たされた頃。

テラスから、喧嘩腰の声が聞こえてきた。


ほのかにライトアップされた夜のウッドデッキで、部長と慧さんが対峙してるのが見える。

明らかに険悪なムードで、思わず葉さんを振り返ると、隣にいたはずの姿がない。


見れば彼は、盗み聞きですという空気丸出しでガラスに貼りつき、カーテンの陰に身をひそめていた。

私に気づくと、人差し指を立てて、手招きする。



「葉さん、ダメですよ、相当深刻そうですよ」

「だってなんか、俺の名前聞こえたんだもん」


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