グリッタリング・グリーン
言うそばから、本当に聞こえた。

全面ガラス張りで、L字型をしたバーの、隅のほうで身を寄せあう。

無意識なのか、引き寄せるように葉さんが、私の肩に手を回した。


いい加減にしろ、と加塚部長が慧さんをにらんだ。



「お前が何を仕掛けようが、沙里との関係を崩すつもりはない、ほっといてくれ」

「違うだろ、お前は、俺が仕掛けたら、本当に何か起こっちまいそうなのが、怖いんだよ」



部長は、殴りたいのをこらえるみたいに、ぎゅっと拳を握る。



「図星だろ?」

「お前の女房なんだぞ、何か起こっていいわけ、ないだろう」

「いいんだって、俺が言ってんだから、気にすんなよ」

「お前のその態度が、理解できない」



あっそ、と慧さんが肩をすくめた。

葉さんが勇敢にも、ガラス戸を細く開ける。

風に乗って届く部長の声は、低く震えてた。



「お前たちは葉の、親なんだぞ」

「はずみでできただけっつってんだろ、葉だってお前が父親になりゃ、喜ぶよ」

「はずみなんて二度と言うな、お前の息子だ!」



シャンパングラスを木のテーブルに叩きつけた音が、ここまで聞こえて、びくりと私たちまですくんだ。

葉さんの手から、緊張が伝わってくる。

迫力に押されたのか、慧さんが口ごもった。



「しょうがねえだろ、実際はずみだったんだから」

「俺も言わせてもらうぞ、お前は父親になる覚悟が、いまだにできてないガキだ、葉の存在に、責任を持つ自信がないんだろう」

「なんだと?」



部長はひるまず、指をつきつける。



「好き放題して、沙里がどこまで許すか、試してるんだろう、自由人ぶってるけどな、お前はあいつにべったり甘えてるんだよ」

「そこまで言う筋合いねえだろ」

「筋合いでいったら、俺よりある奴なんていない」

「お前は何もわかってねえ」

「わかるかよ、お前は何ひとつ、説明しないのに!」


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