グリッタリング・グリーン
何かが爆発したような、激昂だった。

葉さんが、窓の外に目をこらしたまま、私をぎゅっと抱き寄せる。

何ひとつだ、と部長が、絞り出すようにくり返したのが、かろうじて聞こえた。



「…お前と沙里のことも」

「それは別に、説明するほどの事情も、なかったからさ」

「どういう意味だ」

「だって、言うまでもねえだろ、ガキができたって事実だけで、あとはもう、わかんだろ」



な? とあくまでも軽さを装って、肩をすくめてみせる慧さんを、じっと見つめて。

部長はついに、首を振った。



「もういい」



ため息みたいな、悲しいあきらめに満ちた声だった。


慧さんに背を向けて、こちらに来る。

まずい、と逃げ場所を探した瞬間。



「沙里は、襲われたんだよ」



投げかけられた言葉に、部長が足をとめた。

愕然と目を見開いて、ゆっくりと振り向く。



「…なんだって」

「油科に有名なスケベ助手がいたろ、あいつの部屋に引きずりこまれたんだ」



言葉もなく佇んで、部長が首を小さく振った。



「…なら、葉は」

「あ、あいつは確実に俺のガキだぜ、助手とは最後までいってねえ、沙里が暴れたおかげでな」



慧さんが、手を振って否定する。

そうか、という部長の声には安堵が滲んでた。



「それで沙里は、泣いて俺のとこに来たんだよ」

「どうして、お前のところだったんだ?」



責めるでもない、純粋な問いかけが、当時の三人の関係を表しているようで、胸が痛くなった。

なんの秘密もなかった、気の置けない三人組のバランスが、崩れた瞬間。

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