グリッタリング・グリーン
わかんねえのかよ、と慧さんが苛立たしげな声を出した。

わからない、というように首を振る部長に、うんざりとため息をついて、頭をがしがしと掻く。



「勉強はできるくせに、加塚はほんとバカだよな」

「言われ飽きたよ、それ」

「あのなあ、傷モノになりかけましたなんて、好きな男にわざわざ言う女が、いるか?」



部長が戸惑いを大きくすると、慧さんは、さっきのお返しのように、指を突きつけた。

沙里はなあ、と言い含めるように、一語一語を強調する。



「お前にだけは、絶対に、知られたくなかったんだよ!」



沈黙が、刺さるようだった。

自分の息を飲む音が、ふたりを邪魔してしまいそうで、両手で口を覆った。

身体を硬くして縮こまるあまり、葉さんの表情も、わからない。


保たれてたはずの、三人のバランス。

すれ違ってしまった、ふたりの気持ち。



「そんなのもわかんなくて、よく俺をガキなんて言うな」



そう吐き捨てられても、部長は何も言えず、困惑に泳ぐ目で、慧さんを見ていた。



「沙里はまだ経験も浅くて、本気で怯えて、自分を恥じて、なんか危なかった。だから俺は、気を楽にさせてやろうと思ったんだよ」



わかるだろ、と手を広げる。



「こんなの、誰でもやってて、ちょっと気持ちいいスポーツみたいなもんだって、教えたくて何度か抱いたんだ、そしたらある時」



慧さんは居心地悪そうに、足を踏みかえて。

ジーンズのポケットに両手を入れて、彼には到底似合わない、寂しげな微笑みを浮かべた。



「子供ができたって、沙里が言った」


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