グリッタリング・グリーン
「…言ってくれればよかったのに」
藍色の景色に、細い煙が筋になった。
「すぐには無理だったとしても、せめて…もっと早く」
「加塚くんはねえ、純情すぎるのよ、だから聞かせたくなかったの」
ショック受けちゃうでしょ、と笑う。
ぽかんとしていた部長は、苦笑して。
本当だな、と気弱に言った。
「私、慧が思ってるより、慧の妻であることに、なんの不満もないのよ」
「知ってるよ」
「でもあの人は、いつまでたってもそれを信じてくれなくて、私を突き放してばかり」
「あの女遊びも、半分はポーズだろ」
「そうよ、いつでも離れてっていいぞって、悪者は俺だからって、ずっとああして頑張ってるの、20年以上よ」
信じられる? とあきれたように片腕を広げてみせる顔は、楽しげだ。
「半分は本性なんだけどな」
「とにかく女の子が好きなのよね、昔から」
「わからんでもないが、そろそろ問題だよなあ」
顔をしかめた部長が、ちょっと考えこむそぶりを見せて、シャンパングラスを揺らした。
「俺の家、両親が離婚してるんだ、言ったっけ」
「一度だけ聞いたこと、あるわ」
「高校の頃で、俺はもう18とか、十分成長してたんだけど、それでもやっぱり、きつかった」
ようやくいつもの冷静さをとり戻したのか、周りの木々や空に、なんとはなしに目を向けながら。
指に挟んだ煙草で、じっくりと一服して。
「お前たちには、葉の両親でいてほしいよ」
そう、きっぱりと言った。
沙里さんがにっこりとうなずくと、気恥ずかしくなったのか、照れくさそうに言い添える。
「なんて、お前たちが一番、そう思ってるよな、自慢の息子だもんな」
「親って勝手よね、子供の才能は自分の遺伝、ダメなところは、どこで覚えてきたの、で済ますんだから」
「少なくとも葉の口の悪さは、慧の血だろ」