グリッタリング・グリーン


「俺が惚れるわ」



葉さんは、うっとりとため息をついて、さっきから同じことばっかり言ってる。



「あんなの俺だったら確実に落ちる、もう抱かれたい」

「しっかりしてください」



加塚部長への憧れが、ついに天井を突き抜けたらしい葉さんが、ワインボトルのコルクを器用に抜く。

綺麗なグラスに注いで、はいとひとつを渡してくれた。



傍で聞いているほうがぼんやりしてしまうような告白のあと、沙里さんと部長は、少し近況などの話をして。

そんなにたたないうちに、部長だけが屋内へ戻ってきた。



『加塚さん』



私と葉さんは、ソファの陰で、床に座りこんで、完全にそこで酒盛りをしているような状態で。

死角から声をかけられて、ぎょっとこちらを見た部長は、事態を把握するまでに、少しを要し。

恥ずかしそうに、困ったように、笑った。



『ごめんね、全部、聞いちゃった』

『趣味悪いぞ』



テラスの沙里さんに聞こえないよう、小声でたしなめる。

葉さんはソファの陰から身を起こすと、ごめん、と申し訳なさそうに、もう一度言った。



『いいよ、お前にもいずれ聞かせる話だったろうし』

『俺も親父と同じで、加塚さんと母さんに何か起こらないかなって、いろいろやってたんだ』



しゅんとする葉さんを、驚いた顔で見つめると、部長は優しくその頭に手を置き、悪かったな、と謝った。



『俺がはっきりしなかったせいで、余計な期待させたな』

『加塚さんは、謝んないでよ…』

『なあ葉、俺は、自分は創作より編集に向いてると、途中で気がついて、まあクリエイターとしては、いわば挫折した身だ』

『そんな言いかたないだろ、加塚さんがサポートしてくれなかったら、俺も親父も、いまだに日の目を見てないよ』



不満そうな葉さんに、そうだな、と笑う。

その髪を、愛しげにかき回しながら、言い聞かせるように、目をのぞきこんだ。

< 189 / 227 >

この作品をシェア

pagetop