グリッタリング・グリーン
「俺が惚れるわ」
葉さんは、うっとりとため息をついて、さっきから同じことばっかり言ってる。
「あんなの俺だったら確実に落ちる、もう抱かれたい」
「しっかりしてください」
加塚部長への憧れが、ついに天井を突き抜けたらしい葉さんが、ワインボトルのコルクを器用に抜く。
綺麗なグラスに注いで、はいとひとつを渡してくれた。
傍で聞いているほうがぼんやりしてしまうような告白のあと、沙里さんと部長は、少し近況などの話をして。
そんなにたたないうちに、部長だけが屋内へ戻ってきた。
『加塚さん』
私と葉さんは、ソファの陰で、床に座りこんで、完全にそこで酒盛りをしているような状態で。
死角から声をかけられて、ぎょっとこちらを見た部長は、事態を把握するまでに、少しを要し。
恥ずかしそうに、困ったように、笑った。
『ごめんね、全部、聞いちゃった』
『趣味悪いぞ』
テラスの沙里さんに聞こえないよう、小声でたしなめる。
葉さんはソファの陰から身を起こすと、ごめん、と申し訳なさそうに、もう一度言った。
『いいよ、お前にもいずれ聞かせる話だったろうし』
『俺も親父と同じで、加塚さんと母さんに何か起こらないかなって、いろいろやってたんだ』
しゅんとする葉さんを、驚いた顔で見つめると、部長は優しくその頭に手を置き、悪かったな、と謝った。
『俺がはっきりしなかったせいで、余計な期待させたな』
『加塚さんは、謝んないでよ…』
『なあ葉、俺は、自分は創作より編集に向いてると、途中で気がついて、まあクリエイターとしては、いわば挫折した身だ』
『そんな言いかたないだろ、加塚さんがサポートしてくれなかったら、俺も親父も、いまだに日の目を見てないよ』
不満そうな葉さんに、そうだな、と笑う。
その髪を、愛しげにかき回しながら、言い聞かせるように、目をのぞきこんだ。