グリッタリング・グリーン

「…インスタ作家さんですか?」

「別に、そう名乗りはしないけど。インスタもやるし、イベントとか建物のライティングデザインもやるよ」



こういうもののくくりは難しく、あえて言うならたぶん、光を専門とする商業デザイナー兼アーティストってとこだ。

私はあぜんとして、彼を見つめた。



「あの、アトリエで?」

「あそこはアナログ用の部屋だから。他の部屋はPCもあって、施工もできる工房になってる」



そうだったのか。

まだ呆然と、よく理解しきれていないような気持ちでいたら、はい、と封筒を渡された。



「今月のぶん」

「あっ、はい、ありがとうございます」



そうだ、これをもらうために来たんだった。

封筒をそっと覗いたものの、絵を確認できるほど周囲が明るくないので、この場ではあきらめる。

そこで、はっと気がついた。



「プロフィールには、イラストレーターって書いてませんか?」

「『榎本葉』はイラストレーターだよ。こういうのは本名でやってる」



ツリーとビルを指して、葉さんが言う。



「葉って、ペンネームですか」

「葉は本名、榎本がペンネーム。俺、イラストからこの世界入ったんだけど、その時、母親の旧姓使ったんだ」

「やっぱり最初は本名に抵抗が?」



なんとなく、葉という名前が本名でよかったと安心した。

ナチュラルで綺麗で、彼にぴったりだ。



「俺、二世だからさ。親父を連想されるのが嫌で」

「そんなにわかりやすい苗字なんですか」

「スズキっていうんだけど」



…日本一多い苗字じゃないか。

バカにしてるの、とじろっと見ると、葉さんがジーンズの後ろからお財布を取り出した。

黒革の財布から運転免許証を抜き出して、はいと渡してくる。

なんだろうと思いながらそれを見ると、今より少し若い葉さんの写真の横には、見慣れない名前が記載されていた。


聖木葉。

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