グリッタリング・グリーン
「…これ、スズキって読むんですか」
「読むんだよ、親戚以外会ったことないけど」
この字でマサキって読む人なら、知ってる。
クールなデザインで若者に人気の、家電やインテリアメーカーと次々コラボしてるプロダクトデザイナーだ。
そう言うと、免許証を受けとった葉さんが、ふて腐れたようにダウンのポケットに両手を突っ込んだ。
「聖木慧(まさきけい)だろ、それが親父。あっちも本名はスズキだよ」
「ええっ!」
聖木慧っていったら、今日本で一番有名なクリエイターのひとりだ。
そんな人の息子だったのか、葉さん。
そりゃ確かに、ある程度自信がつくまでこの苗字は使いたくないかもね…と同情するのと同時に、この人にもそんなとこ気にしちゃう時代があったんだなあ、と微笑ましくなる。
それが伝わったのか、じろっと面白くなさそうに彼がにらんできた。
その顔は、普通の男の子みたいで、可愛い。
「この間、ごめん」
この間? と訊き返してから気がついた。
駅で会った時のことだ。
「よくわかんないけど、俺、なんか嫌なこと言っちゃったんだろ。いつも俺、口に気をつけろって言われる」
「嫌ではないです。正しかったので、刺さったというか」
「俺はさ、まだ若いんだから、なんでもやってみればって言いたかったんだけど」
その言葉に、思わず笑った。
葉さんが不思議そうに私を見る。
私は葉さんと同い年ですよ、と伝えると、嘘、と彼が目を見開いた。
「はたちくらいかと思ってた」
「…一応4年制の大学出てます、名もない地方の美大ですが」
「出てるだけいいじゃん、俺なんか美高卒だよ」
そういえば、彼は10代の頃からすでにイラストの仕事をしている。
学業と両立させていたわけじゃなく、その時にはもう独立してたんだ。
私とは全然違う人生を歩んできた人なんだ。
葉さんはベンチに腰を下ろすと、煙草を取り出して火をつけ、座りなよ、と私の手を引いて隣に座らせた。
「ほんとに描きたいなら、俺、おたくの部長さんに声かけとくよ」
「部長と葉さんて、何かご関係が?」