グリッタリング・グリーン
「そろそろ行くわ、見送りありがと」
「元気で」
空港の出発ロビーで、エマさんが葉さんの手を握った。
続いて私とも、握手してくれる。
慧さんの仕事も一段落し、ついに日本を去るのだ。
「エージェントが欲しくなったら、連絡してね」
「うん」
素直な返事に、面食らったような顔をする。
フライトに備えてか、ジャージ素材のマキシワンピにサンダルの彼女は、いつもよりなんだか柔らかい。
「今回の仕事、面白かったから。俺だけでやってたら入ってこない話だったし、契約も複雑で、まとめられる気しないし」
「私たちを好きに使えばいいのよ、面倒な部分は、文字どおり、代わりをするんだから」
「エマを指名できる?」
エマさんは微笑んで、うなずいた。
「じゃあね」
「あの、エマさん」
なあに? と青緑の瞳が私を見る。
「どうして、エージェントになろうと思ったんですか」
今日、彼女のメガネ姿を初めて見た。
休日スタイルよ、と笑ってたけれど、美人は何をやっても様になるなあと見とれた。
「そういえば、葉の前で話すって、約束したわね」
「マーケティングの勉強をしに、留学したんですよね、どうして、あのタイミングで」
レンズの奥の目が、迷っているのがわかる。
はっきりさせたい気持ちと、言いづらさがせめぎあってるんだろうか。
やがて、長い髪をかきあげて、口を開きかけた時。
「俺が、マーケティングの被害者だと思ったからだろ?」
その言葉に、目を丸くして葉さんを見た。