グリッタリング・グリーン
「どうして…」
「俺だって、頭使うんだよ、エマがエージェントとして戻ってきて、わざわざ俺に声をかけたのはなんでか、考えたんだ」
「それで思いついたの?」
頑張った生徒を見るような調子で微笑むと、エマさんは、「葉が苦しんでた頃ね」と懐かしそうに言った。
「私は横で見ていて、どっちの立場もわかると思ったの、エージェンシーのやりたいことも、理解できた」
「やりかたはともかくね」
「彼らは手法にこだわるあまり、クリエイターが人だってことを忘れちゃったのよ、私は絶対に他の方法があると思った」
肩をすくめるエマさんの強さに、改めて圧倒される。
簡単に説明してるけど、プロフェッショナルとして葉さんの元に戻ってくるまでに、どれだけの努力や苦労があったことか。
なんて強靭な、理想を持った人。
「別に葉のためってわけじゃないのよ、朋枝さん、私を美化しないで」
「だね、そういうタイプじゃないもんね」
「そうなのよ、元から興味もあったの、数年働いたら軍資金がたまったから、勢いで飛び立っちゃったのよ」
「俺はもう少し、前もって説明が欲しかったよ」
あらごめんなさい、と葉さんの頭をなでる。
あ、こういう感じの関係だったのか、と初めてその時、見えた気がした。
「せっかく来てくれたのに俺、最初、態度悪くてごめん」
「いいわよ、あれからもつらい思いをしたって聞いた」
「ガキだっただけ」
ジーンズに両手を入れて、恥ずかしそうに首をかしげる葉さんを、エマさんはじっくりと眺めて。
ふとメガネを外し、葉さんの顔を上向かせると、唇にキスをした。
そこそこの衝撃だった。
この距離で、よく知る人のこういうシーンを見るのって、ありそうで、ない。
固まる私を、エマさんがちらりと笑った気がした。
葉さんが、嫌になるほど男らしいと思うのはこんな時で。
嫌がりもしなければ逃げもせず、それどころか一度離れたエマさんの唇を、追いかけて柔らかくついばむ。
唇が完全に離れる前に、ふたりは同時に目を開けた。
至近距離で見つめあう、かつてそういう関係にあったふたりを目の当たりにするはめになった私は。
完全にとり残され、佇んでいた。