グリッタリング・グリーン

「またね、葉」

「うん」

「よく朋枝さんを見つけたわね」



きょとんとした葉さんは、ちょっとはにかんで、うん、とまたうなずく。

エマさんは私にも手を振って、あっさり去っていき。


私は、綺麗な人は、何もかも綺麗だ、と思いながら、すらりとした背中を見送った。

言葉も、行動も、志も。





「親父が家に戻るかもしれないんだって」

「えっ、別居終了ですか」



よかったですね! とサンドイッチを持った手を叩いてから、よかったのか? と自分で首をひねった。

喧嘩三昧だったんじゃ、なかったっけ。



「加塚さんがそうしろって指導してるんだって、今の状態だと、三人で集まるのが難しいから」

「うまくいくでしょうか」

「俺も不安なんだけど、まあ、親父も少しは大人になってんじゃない?」



本人が聞いたら、腹を立てるだろうなあ、と顎ひげの顔を思い浮かべた。


共同生活は、以前よりは穏やかに進むだろう。

慧さんはきっと、父親として、夫として、失格の烙印を押され続けようとしてきた。

いつでもその座を、親友に明け渡せるように。


バッカじゃねえの、とそれを知った時、葉さんはつぶやいた。

私もバカだと思う。

誰よりも慧さん本人が、そう思ってると思う。


バカみたいに頑なで、純粋な、強い強い愛情と、友情。



「日なたは暑いね」

「葉さんの服、黒いから」

「そこまで変わらないだろ」



空港からの帰り、あんまりいいお天気なので立ち寄った公園の、芝生のベンチで。

パリッとしたバゲットのサンドイッチを、かけらがこぼれるのも気にせずに頬張った。


もう夏だ。


横手に広がる芝の上で、犬がボールと戯れている。

のどかだなあ、と眺めていたら、それがふいに方向を変えて、こちらに走ってきた。

と、葉さんが喉の奥で、声にならない悲鳴を発した。

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