グリッタリング・グリーン
サンドイッチをくわえて、律儀に紙ナプキンで受けた体勢のまま、さっとベンチに飛び乗り、私を越えて反対側に回る。
息を弾ませたレトリバーがそちら側に行くと、盾にするように、ぐいと私を引き寄せた。
「葉さん、犬ダメなんですか」
「うん」
あらら、可愛い。
でも残念ながら、犬は自分を嫌いな人がわかる。
レトリバーも、もてあそぶように執拗に葉さんに迫り、無邪気を装っては濡れた鼻を押しつけた。
「なんでこいつ、こっち来んの」
「そのサンドイッチが欲しいんですよ」
「あげたらあっち行ってくれる?」
「犬に人間の食べ物はよくないです」
どうすりゃいいんだよ、という声は、泣きそうだ。
これは真剣にダメなんだなと悟り、犬の首輪をとって、葉さんから引き離した。
喉をかいてあげると、うしろ足が浮く勢いで尻尾を振る。
私の陰で身を硬くしていた葉さんは、レトリバーが飼い主の元に戻るとようやく、深い息をついてベンチに座り直した。
「ほんとにダメなんですね」
「ほんとにダメ」
「昔からですか?」
「牧場とかで、動物さわれる場所あるじゃん、小さい頃、仔犬がうじゃうじゃいる柵の中に、親父にほうりこまれて、以来ダメ」
あー…と同情の声が出た。
それは、苦手になるかもしれない。
「仔犬っていっても、大型犬の子供だったから、当時の俺より全然でかくて、もう完全にトラウマ」
「葉さんにも苦手なもの、あるんですねえ」
「全然あるよ」
たとえば、と訊くと、点滴、と即答される。
注射じゃなくて?
「針が居座る感じが嫌い、ぞわぞわする」
「他には」
「バイク」
「事故の経験でも?」
「昔、親父のバイクのマフラーでけっこうひどいやけどして、今でもなんか、近寄るの怖い」
「慧さん、だいぶ一役買ってますね」
「こんなんばっかだよ、親父の記憶」
息を弾ませたレトリバーがそちら側に行くと、盾にするように、ぐいと私を引き寄せた。
「葉さん、犬ダメなんですか」
「うん」
あらら、可愛い。
でも残念ながら、犬は自分を嫌いな人がわかる。
レトリバーも、もてあそぶように執拗に葉さんに迫り、無邪気を装っては濡れた鼻を押しつけた。
「なんでこいつ、こっち来んの」
「そのサンドイッチが欲しいんですよ」
「あげたらあっち行ってくれる?」
「犬に人間の食べ物はよくないです」
どうすりゃいいんだよ、という声は、泣きそうだ。
これは真剣にダメなんだなと悟り、犬の首輪をとって、葉さんから引き離した。
喉をかいてあげると、うしろ足が浮く勢いで尻尾を振る。
私の陰で身を硬くしていた葉さんは、レトリバーが飼い主の元に戻るとようやく、深い息をついてベンチに座り直した。
「ほんとにダメなんですね」
「ほんとにダメ」
「昔からですか?」
「牧場とかで、動物さわれる場所あるじゃん、小さい頃、仔犬がうじゃうじゃいる柵の中に、親父にほうりこまれて、以来ダメ」
あー…と同情の声が出た。
それは、苦手になるかもしれない。
「仔犬っていっても、大型犬の子供だったから、当時の俺より全然でかくて、もう完全にトラウマ」
「葉さんにも苦手なもの、あるんですねえ」
「全然あるよ」
たとえば、と訊くと、点滴、と即答される。
注射じゃなくて?
「針が居座る感じが嫌い、ぞわぞわする」
「他には」
「バイク」
「事故の経験でも?」
「昔、親父のバイクのマフラーでけっこうひどいやけどして、今でもなんか、近寄るの怖い」
「慧さん、だいぶ一役買ってますね」
「こんなんばっかだよ、親父の記憶」