グリッタリング・グリーン
葉さんはうなずいて、親父の友達、と言った。

聞けば、葉さんに最初にイラストの仕事を与えたのが部長らしい。

その後、葉さんの得意とするライティングの仕事も彼がもらってきてくれたりしたそうで、つまりは葉さんがこの業界に入るきっかけをくれた恩人ってことだ。

だから造形のほうの仕事がメインになった今も、うちの会社とだけイラストの仕事を続けているんだそうだ。



「それでお稚児さんとか、噂が」

「え?」



口がすべった私は慌てて、なんでもないです、と首を振る。



「いいです。実力勝負の世界で、そんなふうに話をつけてもらうのとか、甘いと思いますし」

「逆。結局は実力勝負なんだから、入り口なんて裏だろうが汚かろうが、気にする必要ないんだよ」



どうせ、入ってから淘汰されるんだ。


きっぱり言いきる葉さんは、やっぱりプロなんだなあと思わせた。

彼を、いつの間にかゆっくりと明滅を始めた白銀のツリーのきらめきが照らす。



「どうやったんですか、あの、突然出現させたの」

「ツリー自体は元からあったんだよ、表面に光を吸収する素材を使って、見えづらくさせてただけで」

「これ、ツリー自身が光源なんじゃ、ないんですね」



よく気づいたね、と葉さんが笑う。

いつも仏頂面の彼の、こんなふうに優しく笑った顔なんて初めてで、思わず見とれた。



「常駐の照明の角度と球を変えて、照射してるだけ。これ自体のために新しい電源はまったく用意してないんだ。ビルも同じ」

「それは、クライアントの要望で?」

「いや、俺の趣味」



組んだ足に頬杖をついて、隣から私を見上げるように、にこりと彼が微笑む。



「普段からあるものでも、こんなことできるんだよって。そういうのが好きなんだ」



胸を突かれた。

好きなんだ。

その理由だけで、これだけのことを実現させるのに、苦労がないわけがない。

障害がないわけがなくて、でも、それでも表現するのが、彼なんだ。


葉さんはベンチの横の灰皿にぽいと煙草を捨てると、新しい一本を取り出して、また火をつけた。

< 21 / 227 >

この作品をシェア

pagetop