グリッタリング・グリーン

「どんな奴だと思ってたの」



あれっ、私、声に出してた?

出してたよ、と心外そうに葉さんが、見おろしてくる。



「最初は怖かったです、何も喋ってくれなくて」

「だってよく知らない相手と喋ること、ないじゃん」

「だから喋るんですよ、きっと」



知るために。

そう言うと、なるほどね、と素直にうなずく。



「どうしたら喋ってくれるかなって、そればっかり考えてました」

「そういうところが好き、前向きで」



急に優しくなったキスが、ふわっと落とされた。


周りに誰もいなくてよかったと思った。

こんなところで、こんなにくっついて、誰かに見られたら、どう思われるんだろう。



「俺はね、生方が気になりだしたの、去年の夏」

「えっ」

「ものすごい暑い日の日中に、原稿をとりに来てもらったことがあってさ、今思うと、夜にしてやれよって感じなんだけど」



あったかなそんなこと、と記憶を探る。

テレビでは40度なんて言ってた日で、葉さんは内心、大丈夫かなと思っていたらしい。



「時間どおりに生方は来て、真っ赤な顔で汗かいて、葉さん暑いですから飲んでくださいって、フルーツジュースを持ってきたの」

「駅前のパーラーの?」

「そう、俺は正直、そんなに暑いなら、ひとりで飲んでくりゃいいじゃんって思ったんだけどね、そもそも俺は暑くないし」



そりゃそうだ、アトリエは冷房が効いてる。

結局私は、一本を葉さんに押しつけ、玄関先で一緒に飲み干し、原稿と空き瓶を回収して、帰ったんだそうだ。

ほてってきた頬を、思わず手で隠した。



「すみません、私たぶん、自分が飲みたかったんです」

「だろうね」

「あそこのジュース、贅沢品で、そんな時くらいしか買えないので…」

「覚えてる、この時のこと?」


< 210 / 227 >

この作品をシェア

pagetop