グリッタリング・グリーン
「どんな奴だと思ってたの」
あれっ、私、声に出してた?
出してたよ、と心外そうに葉さんが、見おろしてくる。
「最初は怖かったです、何も喋ってくれなくて」
「だってよく知らない相手と喋ること、ないじゃん」
「だから喋るんですよ、きっと」
知るために。
そう言うと、なるほどね、と素直にうなずく。
「どうしたら喋ってくれるかなって、そればっかり考えてました」
「そういうところが好き、前向きで」
急に優しくなったキスが、ふわっと落とされた。
周りに誰もいなくてよかったと思った。
こんなところで、こんなにくっついて、誰かに見られたら、どう思われるんだろう。
「俺はね、生方が気になりだしたの、去年の夏」
「えっ」
「ものすごい暑い日の日中に、原稿をとりに来てもらったことがあってさ、今思うと、夜にしてやれよって感じなんだけど」
あったかなそんなこと、と記憶を探る。
テレビでは40度なんて言ってた日で、葉さんは内心、大丈夫かなと思っていたらしい。
「時間どおりに生方は来て、真っ赤な顔で汗かいて、葉さん暑いですから飲んでくださいって、フルーツジュースを持ってきたの」
「駅前のパーラーの?」
「そう、俺は正直、そんなに暑いなら、ひとりで飲んでくりゃいいじゃんって思ったんだけどね、そもそも俺は暑くないし」
そりゃそうだ、アトリエは冷房が効いてる。
結局私は、一本を葉さんに押しつけ、玄関先で一緒に飲み干し、原稿と空き瓶を回収して、帰ったんだそうだ。
ほてってきた頬を、思わず手で隠した。
「すみません、私たぶん、自分が飲みたかったんです」
「だろうね」
「あそこのジュース、贅沢品で、そんな時くらいしか買えないので…」
「覚えてる、この時のこと?」