グリッタリング・グリーン
「あんまり近寄らないでくれる?」
耳を疑った。
「え?」
「俺、女の人と話すの、慣れてないんだ」
照れているわけじゃないことくらい、態度でわかる。
初めて顔を合わせた、都内のオフィスのくつろいだ打ち合わせスペースで。
慎重に距離をとりながら、彼は言った。
「あんたみたいな、綺麗な人とは、特にさ」
口説かれてるのかと思った。
のちにそう告白したら、葉は自分の無礼を棚に上げて、大笑いした。
「なんで俺が、あの場でエマを口説くの」
「そうよね、そんな気の利いた真似、できないわよね」
嫌味は通じず、できないできない、と裸のお腹を抱えて笑い、サイドテーブルに広げた紙資料から一枚をとった。
「決めた、ここにする」
「よさそうね、空家だし、すぐ見せてもらえると思うわ」
「急がなくていいよ、どうせそのままは使わないし」
まだ汗の引ききらない額を、腕でこすってから煙草をくわえる。
そんな幼い仕草が、実際この子は、まだ19歳になったばかりなのだと思い出させた。
日本にいる友人が、いつもかき集めて送ってくれる、展示会や劇団の案内の中に、彼の作品を見つけた。
なんとそれは、美術高校の文化祭のフライヤーだった。
はっと目を惹く、研ぎ澄まされた鉛筆のラインと、見る者の気持ちを高揚させるような落ち着かせるような、独特の配色。
どこかで見た作風だと気になって、作品に入っていた"葉"というサインを元に色々と調べたところ。
榎本葉の名前でWEB上に作品を置き、あるネットワークの内輪の賞をとっていたりするイラストレーターだった。