グリッタリング・グリーン
(まさか文化祭のフライヤーに、生徒以外の作品を使うわけはないだろうから…)
高校生だったのね。
若い作家だろうとは思っていたけれど。
日本語と英語を使いこなしながらも、はしゃいだところのないコメントなどは、もう少し成熟した印象を与えていた。
これは、とニューヨークの小さなオフィスで考え込んだ瞬間、ボスが戻ってきた。
「ニック、サチコが戻ってきたら、私を日本に行かせてくれる約束だったわよね」
「うん、きみの気が変わっていなければだけど、どうしてだい?」
ボスといっても、彼は大学の先輩で、まだ20代だ。
芸術オタクを集めた学内クラブのリーダーで、卒業後にこの会社を興した。
何人かのキュレーターを集めて、全世界からクリエイターを探し出し、展示会や画廊への斡旋を行う会社だ。
クリエイターやアートが好きで、複数言語を話せることが条件、あとはニックの好みかどうか。
そんな基準で人を集め、どうしてかこれが、うまくいっている。
「気になる作家がいるの」
「MANGA系なら、僕は手をつける気はないんだけど」
「違うわ、見てよ、これ」
デスクのこちら側に呼び寄せて、榎本葉の作品を見せると、あれ、とニックが声をあげた。
「僕、同じファーストネームのVJを知ってるよ、これってよくある名前なの?」
「葉が? そうでもないと思うけど」
「じゃあ同一人物かな、この字の形が印象的だったんだ、葉っぱって意味じゃなかった?」
「そうよ、よく覚えてたわね」
「だっていかにも葉っぱって感じのデザインじゃない、日本のピクトグラフは秀逸だよね」
葉という漢字が象形由来だったか思い出せず、でも確かに、丸い葉に透ける葉脈の雰囲気をよく表している文字だと、今さら思い。
そんなふうに捉える、非ネイティブならではの感性に感心した。
「フレディってあだ名をつけようと思ったら、かなり気分を害したらしくて」
「当たり前よ、どこでVJをやってたの、顔を見た?」
「一年くらい前、ロウアーイーストのクラブでやった身内のイベントで。顔はよく見えなかった、彼はブースの中にいたから」