グリッタリング・グリーン
ツリーの横を通ると、なるほど葉の一枚一枚が透き通った二重構造になっているのが、よく見るとわかる。

聖なる木の葉なんて、ぴったりすぎるにもほどがある名前だな、とぼんやり考えた。



「あのインスタ、終わりですか」

「毎正時から30分、19時にまた始まる」



ぶっきらぼうに言う葉さんは、振り向きもしない。



「こんな格好で、入れるでしょうか」

「個室だし、店に迷惑はかけないと思うよ」

「どうして、いきなり食事なんて」

「そりゃ、クリスマスだからでしょ」



そういう意味で訊いたんじゃないんだけど。

彼もわかってて答えたんだろう、相変わらず私を見もせずに、ビル内のエレベーターまでぐいぐいと引っぱっていく。



「葉さん、私、自分で部長に言ってみます」



そう言うと、上りのボタンを押した葉さんがようやく振り向いた。

軽く眉を上げると、真面目な顔でうなずく。



「いいと思う、頑張って」

「はい」



私は今の編集の仕事も、制作進行の仕事も好きだ。

だからその中の一環としてイラストを描けたら、言うことない。

そう部長に伝えて、これまで描いたものを見てもらおう。


ダメならダメでいい。

挑戦することで、失うものなんてない。


可愛らしいベルの音がして、エレベーターが到着した。

ガラス張りの箱からは、さっきの広場を見下ろせる。

ガラスに映った葉さんと目が合うと、インスタ、気に入った? と尋ねられた。



「すごく」



うなずいて心から答えると、彼が嬉しそうに、少し照れくさそうに、にこっと笑う。

こんな葉さん、初めて見る。

つないだ手より、その笑顔のほうがドキッとするかもしれない。


その手がきゅっと軽く引っぱられたと思うと、あのさ、と無邪気に首をかしげた顔が訊いてきた。



「チゴって、何?」






葉さんのイラストは、2月発行というタイミングに合わせて、バレンタインを意識した女の子の絵だった。

他の誰にもわからないだろうけれど、私だけは気がついて、恥ずかしさのあまりその絵をどこかに隠してしまいたくなった。

くせっ毛をふわりとふくらませて、マフラーに顔をうずめてたたずんでいるこの女の子は。

私だ。

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