グリッタリング・グリーン
学生時代から描き溜めた絵を部長に見せて、業務の中で使いたいと話したら、いいよ、とあっさり言われた。
「クライアントがそれを希望すれば、だけど。積極的に提案していいよ」
ありがとうございます、と言う声は、完全に拍子抜けしていたと思う。
まさに案ずるより産むがなんとかだと思って、その報告と、次回の発注の話をしようとデスクから葉さんに電話をしたら、出るなり「今、忙しい」とつっけんどんに言われて、一瞬で通話を切られた。
芸術家様だからってこんな無礼が許されると思うな、と我ながら卑屈な思いがこみあげたりもしたけれど。
その傍若無人さがやっぱり彼らしく、私は笑った。
どうして彼だけが自由だなんて思ってたんだろう。
彼は自由に恵まれているわけじゃない。
自由であるために闘う強さを持っているだけだ。
それが彼と、彼の作品の美しさだ。
ふいに窓際の誰かが、雪だ、と声をあげた。
何人かが席を立って、ブラインドを指で割って窓の外を眺める。
その隙間から私にも、駐車スペースを照らすライトに浮かび上がる白いかけらが見てとれた。
さっきの電話で、屋外らしい音が背後に聞こえていたから、きっと葉さんもこの雪を見てる。
彼の目に、この綺麗な景色はどう映るんだろう。
彼の中で、それはどう昇華されて、あんな美しい作品に生まれ直すんだろう。
葉さん、私はその奇跡のような工程を、これまでより少し近くで見せてもらうことができますか?
私も頑張れば、あなたの立つ世界の、すみっこにぶらさがることくらいはできますか?
暖かい室内で、ぼんやりと窓を眺めていたら、バッグに入れていた携帯が鳴った。
画面には葉さんの名前がある。
きっと、さっきごめん、と申し訳なさそうに、でもぶすっとして言うだろう。
それを想像しつつ、私は妙に満たされた気持ちで、携帯を手にフロアを後にし。
廊下の端の窓から、しんしんと雪の降る夜空を見上げて、つながった電話に話しかけた。
「葉さん?」
ひかりの葉
Fin.
──I wish you a Merry Christmas...