グリッタリング・グリーン
「何やってんの」
ふいに声をかけられて飛び上がった。
振り向くと、黒い長袖のTシャツ姿で、葉さんが大判の封筒を手に立っている。
慌ててPCのブラウザのタブを切り替えようと試みたけれど、彼の顔つきで、もう内容を見られたことはわかった。
デニムの腰に手をあてて、静かに私を見下ろす。
「本人がここにいるのに、検索するって何」
「だって葉さん、仕事の実績のこととか、あまり話してくれないので…」
納品するイラストをまとめる間、好きに遊んでていいよ、とこの造形のほうのアトリエに通され。
二部屋をぶち抜いて畳をはがしたらしい広々した空間の片隅にPCデスクを見つけた私は、そうだと思いついて、葉さんのフルネームを検索してみたのだ。
いつの間にか、彼がこの部屋に入ってきていたことに気づかなかった。
真冬でも裸足の葉さんは、足音がしない。
「そもそも訊かれたこと、ないけど」
「訊いても、教えてもらえないかと思って…」
冷たい視線に射すくめられて縮こまる。
葉さんが、持っていた封筒をはいと私に押しつけた。
「今月のぶんと、あと増刊号の表1、表4」
「ありがとうございます」
拝見します、と中身をそっと机の上に出すと、私はもう目の前の葉さんの存在を忘れた。
丁寧にかけられたトレーシングペーパーをめくる手が、期待で震える。
薄い覆いの下から現れる、美しい色彩。
のびやかな鉛筆の線。
今にもまばたきをして、あくびでもはじめそうな猫が、尾を優雅に丸めてこちらを見ていた。
葉さんの絵。