グリッタリング・グリーン
「…珍しいですね、生き物がメインって」
「迷ったんだ、今回、モチーフ何にしようかなって。そしたら、最近このあたりに住み着いた奴がいたの、思い出して」
「追いかけたんですか」
「まあね」
もしかして、スケッチや習作があれば見せてもらえないかと尋ねようとしたら、それより先に彼の手が、私の座る椅子の背に回った。
体重をかけられて、居心地のよいワーキングチェアがゆったりとたわむ。
「なんでこんなもの、見てたわけ」
「ちょっと、知りたくなって…」
「まず俺に訊きなよ」
だから、訊いてもきっと教えてくれないと思ったんです。
心の中で言い訳しながら、彼の言葉ももっともで、小さくなった。
「制作、うまくいってる?」
「え?」
「それの、次の号のさ」
少し身をかがめていた葉さんが、私の手の中の封筒を顎で示す。
私のイラストのことだとわかった。
クライアントに、私のこれまでの作品を見せて、販促品などに使っていただけませんかと提案したところ。
なんと、毎号葉さんのイラストを使っていたファン向け冊子の表紙を、隔月で描かせてもらえることになったのだ。
「人の仕事、取ってくれちゃって」
ふんと言い放った葉さんが、どこかに行ってしまいそうなそぶりを見せたので、慌てて顔を上げる。
フェイクだったらしく、面白がるような表情で、変わらずデスクの横に立つ葉さんと目が合った。
「嘘」
「葉さん…」
「頑張りなよ、きっとそのうちここに」
カチンとライターの音をさせて、いつの間にかくわえていた煙草に火をつけて。
葉さんは優しく微笑むと、PCの画面を指でつついた。
「生方朋枝って項目が、できるよ」