グリッタリング・グリーン
「相変わらず彼に甘いね、朋枝ちゃん」
「ちょっととっつきにくいだけなのに、気難し屋に見えちゃってるのが残念で」
「ま、とりつくろわない人なんだろうなってのは感じるよね、最近朋枝ちゃんをお気に入りなのも、わかりやすいもんねえ」
「未希さんてば」
真っ赤になって食ってかかる私を、未希さんが面白そうに笑った。
もう、こういう話ってどこから伝わるんだろう。
もしかして部長からだろうか。
(お気に入りとか…)
赤ペンを用意しながら考えた。
確かに、無愛想でぶっきらぼうな葉さんが、私には態度を和らげてくれてるな、と感じることはある。
去年のクリスマスに、突然誘われて優雅なディナーを一緒にとったこともある。
でもまだ、それだけ。
それだけなんですよ。
「お疲れ、悪いね、先に始めてるよ」
「いえ、すみません、遅くなりました」
部長がちょっと掲げてみせたのは、すでにビールジョッキではなく、何かの水割りらしいグラスだった。
会社を出る間際に厄介な案件の電話をとってしまったおかげで、予定より遅れてダイニングバーに到着した私は。
同じく、お疲れ、とグラスを掲げて迎えてくれた葉さんを見て、うわあ、と声をあげそうになった。
プライベートの彼を見るの、久しぶりだ。
「葉、お前その税理士、変えたほうがいいよ」
「だよねえ、誰かいい人知らない?」
「あたってみる、親父と同じ人じゃ嫌か?」
「嫌」
フローリングに掘りごたつ、毛皮のラグ、という風変りな店内で横に並んだふたりは、想像を超えて仲睦まじげだ。
ふたりの正面に腰をおろしながら、わああ、とまた心の中で声をあげた。