グリッタリング・グリーン
はじめて会った時、葉さんは私を見るなり不審そうに目をすがめて。
『あんた、誰』
警戒した声で、そう訊いてきた。
アトリエの玄関先で、私は必死に喋った。
入社したばかりの新人であること。
先輩社員がやっていた原稿の受け取りの業務を引き継いだこと。
事前に、担当が変わることを連絡せず、たいへん申し訳なく思っていること。
黙って聞いていた葉さんは、ふいと姿を消すと、大きな封筒を手に戻ってきて。
それを私に押しつけるなり、ぴしゃんと戸を閉めた。
オフィスに電話をくれる時、葉さんはなかなか私を呼び出してくれなかった。
その時々で、電話を取った人間に用件を言づけるだけで、まるで私には特に用はないとばかりに。
ある時電話を取ると、名乗りもせずに彼が言った。
『コール前に取るのやめてくれない、びっくりする』
『すみません、つい気が急いて』
『新人が取らないと怒られたりすんの?』
会社って大変だね、と感心したように言う葉さんに、私は少しだけすねた思いがした。
『葉さんのせいですよ』
『え?』
『他の人が出ても、私に取り次ぐよう言ってくれないでしょう、だから誰よりも早く出るようにしてるんです』
そうでもしないと、全然葉さんと話せない。
この頃私は、常に電話に目を光らせ、着信のランプが光った瞬間に取るので、生方がいると電話の音を聞かないと言われるまでになっていた。
葉さんはちょっとの間、沈黙して、でさ、と唐突に用件に移り。
以降、ちゃんと私を呼び出してくれるようになった。