グリッタリング・グリーン
さて。
先日の、お酒の席での騒動から数日後。
仕事の件で報告があり、アトリエに行こうと葉さんに連絡したら、少し離れたところにある喫茶店を指定された。
葉さんがそうするのはすごく珍しく、聞けば最近引きこもりがちなので、外の空気を吸いたかったらしい。
「朗報です、あっ、ただの朗報ってわけじゃないんですけど」
「どっちなの」
「あのですね、出版社さんから連絡がありまして、キッズ辞典の発行部数が増えたんです、その影響で」
持ってきていた紙のサンプルをがさがさと取り出す。
「最初、使えたらいいねって言っていたグレードに近い紙を使えることになったんです、ほら、こちらですね」
「ふうん」
葉さんは吸っていた煙草を灰皿で消して、テーブルに広げたサンプルを手に取る。
「でもこれ、だいぶ黄色いね」
「そうなんです」
紙の色展開が違うおかげで、想定していたよりかなり温かい色味になってしまうのだ。
でもさわるまでもなく、見た瞬間、こちらのほうが上質だとわかる。
「たいへん申し訳ありませんが、これまでいただいた絵を、こちらで色調整させていただいてもいいですか」
「再入稿ってこと? それとも印刷所で?」
「再入稿です、実は出版社さんから大幅な項目の修正が入りまして、製版し直しになったので、そのタイミングで」
「景気のいい話だね」
振り回されて大変だね、と直接には言わないのは、彼なりの気遣いなんだろう。
葉さんは少し考えるそぶりを見せて、オーケー、とうなずいた。
「色調整は任せるよ、今後納品するぶんは、この紙を前提に描くから」
で、いいんだよね? と確認するように私を見る。
私は勢い込んで、はいとうなずいた。