グリッタリング・グリーン
そういう混乱を封じるために、なんとなく社内的に、イベントとしては行わない、みたいな空気があるのかもしれない。

どんなチョコにしようかなあと考えていると、未希さんの携帯が鳴った。



「ごめん仕事だ、じゃね、あの気難し屋のひねくれんぼさん、喜んでくれるといいね」



最後にもうひとつ私の手にチョコを握らせて、未希さんは電話をとりながらデスクへ駆けていった。

ひねくれんぼさん、と口の中でくり返してみる。


そう見えますが、きっと違う気がします、未希さん。

葉さんは。

たぶん、すごく素直な人。





もう切ろうかなと思った頃、電話はつながった。



『はい』

「あっ、葉さん、今からそちらに伺ってもいいですか」

『そちらって、どちら』

「………」



基本的にぶっきらぼうな人なので、まだ私への怒りがおさまらないのか、いつもどおりなのか、わからない。

とりあえず、行こうと思っていたのはアトリエなのでそう答えようとして、気がついた。



「ご自宅ですか」

『そう』

「なんだか声が響きますね」

『そう? バスルームだからかな』



少し間があって、これでどう、と言われた時には響かなくなっていた。

浴室へのドアを閉めたか何かしたんだろう。



「あの、また出直します、明日にでも」

『なんで? いいよ、来てくれれば』



なんでって。

自宅になんて、上がれるわけがない。

なんだかあせって、オフィスの廊下で、ひとりで振り払うように手を振った。

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