グリッタリング・グリーン
葉さんはあの和風の民家を改築したアトリエとは別に、住まいを持っている。
アトリエは葉さんの会社の事務所も兼ねているので、彼は日中は基本的に、あっちにいる。
なのでこんな平日の夕方に、自宅にいるのは珍しい。
「ご自宅の場所、存じあげませんし…葉さん?」
もしもし、と話しかけても返事がなく、衣擦れみたいな音と、カチャカチャという金属っぽい音がかすかに聞こえてきた。
もしかして、着替えてるのかな。
たぶんシャワーを浴びたところだったんだ。
てことは電話をとった時は裸か、と想像がふくらんで、ひとりで恥ずかしくなる。
こちらの声は聞こえていたようで、作業を終えたらしい葉さんが再び出てくれた。
『外でよければ、駅で会えるよ、ちょうど出かけるところだから』
「はい、お渡しものなので、一瞬でけっこうです、どちらの駅ですか?」
『ほんとに知らないんだね』
笑い声がした。
『俺の家は、仕事場から歩いて10分くらいだよ』
なーんだ、と会社を出ながら、ほっとしたようなあっけないような気持ちになった。
「来てくれれば」って、そういうことか。
私が行くなら、葉さんもアトリエに寄るよってことだったんだ。
そりゃそうだよねえ、と変に動揺して舞い上がった自分を、バカみたいだと振り返る。
もう真っ暗になった道を走ると、手に提げた紙袋の中身が乾いた音をたてた。
めんどくさそうな顔をしないでくれるかな。
どんなふうに受け取ってくれるかな。
「俺に?」
グレーのフィルムでセンスよくラッピングされた箱を差し出すと、葉さんは目を丸くした。
「バレンタインなので」
「生方からってこと?」
「はい、葉さんに受け取っていただきたくて」
アトリエは葉さんの会社の事務所も兼ねているので、彼は日中は基本的に、あっちにいる。
なのでこんな平日の夕方に、自宅にいるのは珍しい。
「ご自宅の場所、存じあげませんし…葉さん?」
もしもし、と話しかけても返事がなく、衣擦れみたいな音と、カチャカチャという金属っぽい音がかすかに聞こえてきた。
もしかして、着替えてるのかな。
たぶんシャワーを浴びたところだったんだ。
てことは電話をとった時は裸か、と想像がふくらんで、ひとりで恥ずかしくなる。
こちらの声は聞こえていたようで、作業を終えたらしい葉さんが再び出てくれた。
『外でよければ、駅で会えるよ、ちょうど出かけるところだから』
「はい、お渡しものなので、一瞬でけっこうです、どちらの駅ですか?」
『ほんとに知らないんだね』
笑い声がした。
『俺の家は、仕事場から歩いて10分くらいだよ』
なーんだ、と会社を出ながら、ほっとしたようなあっけないような気持ちになった。
「来てくれれば」って、そういうことか。
私が行くなら、葉さんもアトリエに寄るよってことだったんだ。
そりゃそうだよねえ、と変に動揺して舞い上がった自分を、バカみたいだと振り返る。
もう真っ暗になった道を走ると、手に提げた紙袋の中身が乾いた音をたてた。
めんどくさそうな顔をしないでくれるかな。
どんなふうに受け取ってくれるかな。
「俺に?」
グレーのフィルムでセンスよくラッピングされた箱を差し出すと、葉さんは目を丸くした。
「バレンタインなので」
「生方からってこと?」
「はい、葉さんに受け取っていただきたくて」