グリッタリング・グリーン
思いがけず、葉さんは本当にびっくりしたようで、お弁当サイズの箱を見つめて固まってしまった。

いつも着ているダウンジャケットのポケットに手を入れて、なんだか呆然としている。


あの、と覗き込むと、はっとその顔が上げられて。

小さな子みたいに、はにかんでほころんだ。



「すごい、嬉しい、ありがとう」



その声が、あんまり素直で純粋だったので、私はどぎまぎして、はいとかいえとか、しどろもどろの返事をした。

まさか、ここまで喜んでくれるなんて。

なら頑張って手作りとかすればよかった。



「こいつ、何? 可愛い」



チョコの横に入っている、シャツ姿の黒猫のぬいぐるみを指して葉さんが笑う。



「可愛いですよね、それでこれに決めたんです、猫ってなんだか葉さんぽいかなって」

「俺が、猫?」



どのへんが? と楽しそうに首をかしげる葉さんに、私まで嬉しくなって、なんとなくです、と言って笑う。



「加塚部長は馬にしたんです、ちょうどスーツを着ているのがあって、イメージ近いと思いませんか?」



葉さんが、受け取ろうとしていた手を止めた。

その表情を見て、私はまた地雷を踏んだことを悟った。



「加塚さんにも、あげたの、同じもの?」

「…はい」



カチコチと時限爆弾が時を刻む音が聞こえるのは、きっと空耳じゃない。

プレゼントを引っこめるタイミングもなく、押しつけるわけにもいかず、私は胸の高さで、それを捧げ持ったまま。

怒りだすかと思っていた葉さんは、静かにひとつ息をついた。



「バレンタインて、好きな奴にプレゼントするものなんだと思ってたよ」

「もちろん、そうです」

「俺のこと好きなの?」



見れば葉さんは、気分を害したというよりは、傷ついたような表情を浮かべていて。

私はその顔と、あまりにストレートな問いかけに、すっかり気が動転して、考えるより先に口が動いてしまう。

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