グリッタリング・グリーン
ため息と一緒に手帳を閉じて、修正した自分の絵をスキャンする作業にとりかかった。

フロアの中央にある、大きなスチールの天板の作業台で、PCと行き来しながら様子を見つつ作業していると、部長がやってきた。



「生方、家で描いてるの?」

「えっ、はい」



私の絵をのぞきこみながら、何か考えている。



「描くのも仕事のうちなんだから、業務時間の中で描いていいよ、スペースが必要なら、デスクを変えるし」

「いえ、でも、そんな」



クリエイターとして所属しているわけでもない私の絵なんて、まだ趣味と仕事の間のようなもので、そんな待遇は心苦しい。

そう遠慮したら、たしなめるように部長が言った。



「俺は、趣味で描かせているつもりはないよ。確かに制作料が入るわけでもないし、そういう意識は持ちづらいかもしれないけど」

「はい…」

「この案件においては、絵を描くのも生方の仕事だよ、プライベートを削らずに、ちゃんと給与に反映される時間の中で、描きなさい」



はい、と見あげると、少し重たくて甘い煙草の匂いが、スーツから香る。



「今度、生方の業務のうちで、制作に割いていい時間の割合を決めよう、そのほうが生方も気が楽でしょ」

「はい」



部長の理解が嬉しかった。

時間的な上限を設けてもらわなかったら、私は際限なく描き続けて、他の仕事とのバランスがとれなくなって混乱してしまうだろう。

趣味で描いている時だって、翌日の仕事のことを考えなければ、いつまでだって描いてられる。

本当はそこをコントロールするのが「仕事で描く」ってことなんだろうけど、私にはまだ、それができない。

だからこうして、無理にでも規則をつくってもらうのが、一番いい。

< 55 / 227 >

この作品をシェア

pagetop