グリッタリング・グリーン

「ありがとうございます」

「いや、立場的に曖昧で、やりづらいこともあると思うけど、その都度相談してね。ちゃんと社内的にルール化したいんだ」

「社内的に?」

「正式に、進行も制作もできるスタッフって枠があったって、いいでしょ、そのためには、勤務体系や給与制度を整えないと」



そんな大きな話なの。

慌てた私を、部長が笑った。



「生方が恐縮する話じゃないんだよ、今後も生方みたいに、両方できて、やりたいって社員が来るかもしれない、その時のためだ」



社長と話しとくね、と微笑んで、部長はフロアを出ていった。

私の、あとの人のため。

なるほど、とひとつ大きなキューブが、かぽっとどこかにはまったような気分だった。


私は、自覚を持たなきゃいけないんだ。

これまでただ好きなだけだった、絵を描くという作業を、仕事の時間を使って、しなきゃいけないんだってこと。

つまりそれは、描いたものを、仕事として評価されるってことだ。

その覚悟を、持たなきゃいけないんだ。


覚悟。

その響きは、くすぐったくて、おこがましい気もして。

だけど、誇らしかった。






「スイス!?」

「そう、ちょうどおたくでの俺の仕事、隔月になったし、迷惑はかけないと思うけど」

「どのくらい…」



アトリエの玄関の、素朴な下駄箱に寄りかかって、葉さんは腕を組んだ。



「決めてないけど、まあビザなしで滞在できる範囲で」

「それって、どのくらいですか」



ビザなんて、私の生活圏に存在する言葉じゃない。

二週間とか、一か月とかかなと思っていたので、最大90日という返事に驚愕した。

90日って…3か月?

一年の四分の一?

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