グリッタリング・グリーン


「しびれそうな仕事してるね、手伝うよ」

「わあ、ありがとうございます」



山積みされた資料を元に、辞典の追加項目の校正作業に入ろうとしていた私に、未希さんが助け舟を出してくれた。



「未希さんのほうは、一段落ですか?」

「うん、全部入稿して、校正待ちのひととき。WEBチームにも原稿を渡したから、そっちのほうが早くできあがってくるかもね」

「向こうのチーム、最近デザイナーさん、何人か入れたみたいですね」

「まあ、昨今じゃどんな制作物もWEBとセットだから、ひとまとめに内製できたほうが、うちも儲かるもんね」



ですね、と作業台を整理しながら同意した。

私のいる制作一部のほかに、もうひとつ制作二部という部署が最近できて、そちらはWEB制作専門だ。

印刷物からはじまったこの会社も、それだけじゃ先細りになるだけなので、数年前からWEBやアプリの制作に力を入れはじめた。

その方面に疎い私には、先進ソフトを使いこなして、どんな場所でもPC一台で仕事をしてしまう彼らが、魔法使いみたいに見える。



「さて、私はどこからはじめたらいい?」

「あ、じゃあ後半部分を今、分けますので…」



枚数より、センチで言ったほうがいいような量の紙を、だいたい真ん中で分けようとした時。

すんませーん、とオフィスに不似合いな、緊張感のない声が響いた。


フロアにいた十数名の社員が、戸口のほうを見て固まる。

バイカーさんかな、と思うようなレザーのジャケットにデニム姿の男性が、きょろきょろと室内を見回していた。

あ、と思ったのと、その人が私を見つけたのは、同時だった。



「あー、この間の! ちょうどよかった、加塚どこ?」



今をときめくクリエイター、聖木慧氏にみんなの前で指をさされて、思わず気をつけをしてしまう。

頭が真っ白になった私の背中をつついて、未希さんが「たぶん煙草部屋」とささやいてくれた。



「あの、喫煙室かと思います、確認してきます」

「いーよいーよ、俺も行くから、案内してくれる?」

「はっ、はい」


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