グリッタリング・グリーン
室内の視線が痛い。

さすがこういう業界だけあって、彼が誰だか気づいた人が多いらしく、本物? みたいな声も聞こえる。

廊下に出ると、こちらがたじろぐくらいの陽気さで、にこにこと話しかけられた。



「この間、騒がせてごめんな、葉がいると思わなくてさ」

「いえ、そんな、お会いできて光栄でした」



葉さんが聞いたらまた爆発しそうな言葉だけど、本音だ。

だってここまで成功していて、尊敬に値するクリエイター、他に挙げてって言われても思いつかない。

この間は舞いあがる余裕もなかったけど。


聖木氏は私をじろじろと眺めて、楽しげに笑う。



「あんた、いい子だな、葉にはもったいねえや」

「あの、私と葉さんは、別にそういう感じでは」

「でも葉の奴は、あんたに惚れてんだろ? あいつは隠し事とか考えつきもしないアホだから、わっかりやすいんだよな」

「えーと、私の口からは、なんとも…」



もごもごと返事を濁しているうちに、廊下の端にある、ガラス張りの喫煙室に着いた。

中には加塚部長ひとりだけで、煙草を吸いながらスタンドタイプのテーブルで、何か書いている。

たぶん今担当している商品の、プロモーション用のコピーだ。


ノックする前に、聖木氏が躊躇なくドアを開けた。

顔を上げた部長が、ぎょっと目を見開く。



「慧、お前、何やって…」

「いやあ、もう一度この子に会いたくてさ」



嘘つけ、と部長が一蹴した。



「そこまで葉を怒らせること、お前はしないだろ。吐けよ、何しに来た」

「察しがいいなあ、お前んとこに頼みたい仕事があるんだよ、手を動かせる人数が欲しいんだ」



部長が問いかけるように片方の眉を上げて、煙草の箱を差し出す。

にんまりと笑った聖木氏は、そこから一本抜き出してくわえると、私を振り返った。

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