グリッタリング・グリーン
俺の絵が好きなの。


毎回、イラストを受け取りに行くたび私が見とれるので、ある時、彼があきれたようにそう訊いた。

はい、と正直に答えると、葉さんはつまらなそうに、そう、とだけ言って。

それまで玄関先だった受け渡しを、アトリエでしてくれるようになった。





『朋枝のイラスト好評だよ、来月あたり、またお願いしていい?』

「ほんと、ぜひ描かせて」



お風呂に長めに浸かった後、大学時代からの友人から電話がかかってきた。

ひざに置いたパネルの上で絵筆を遊ばせつつ、あいた手で携帯を握る。



『よろしく、詳細決まったらメールするね』

「うん」



おやすみ、と言い合って電話を終えた。

私は携帯をテーブルに置き、再び目の前のパネルに専念した。


電話してきた友人は、雑貨の小売店と契約して、自作のポストカードを販売している。

私も、描いたイラストをその子にポストカードにしてもらっては、利益の一部をもらったりしている。

と言っても、微々たるものだけど。


地方育ちの私は10代のうちに家族と遠く離れて東京に出るなんて考えられなくて、けど絵を描くのが好きだったので、地元の美大に入った。

就職は東京でと思い、クリエイティブの職を探したものの、自分の考えがいかに甘かったかを痛感した。


雇用制度がある程度しっかりした大きな企業では、都内の名のある美大の卒業生しか採用されないといっていい。

地方の名もない美大なんて、美大のうちに入らない。


もちろん選ばなければ、職はある。

だけど自分もなんとか納得できて、親も安心する企業で、と最低限の要件を満たすには、肝心のクリエイティブという職種をあきらめるほかなかった。


ある程度まで描き進めたところで、そろそろ寝ようか思案する。

あと一時間だけ描こうと決めて、筆洗の水を新しくするため流しへ立った。



< 6 / 227 >

この作品をシェア

pagetop