グリッタリング・グリーン
俺の絵が好きなの。
毎回、イラストを受け取りに行くたび私が見とれるので、ある時、彼があきれたようにそう訊いた。
はい、と正直に答えると、葉さんはつまらなそうに、そう、とだけ言って。
それまで玄関先だった受け渡しを、アトリエでしてくれるようになった。
『朋枝のイラスト好評だよ、来月あたり、またお願いしていい?』
「ほんと、ぜひ描かせて」
お風呂に長めに浸かった後、大学時代からの友人から電話がかかってきた。
ひざに置いたパネルの上で絵筆を遊ばせつつ、あいた手で携帯を握る。
『よろしく、詳細決まったらメールするね』
「うん」
おやすみ、と言い合って電話を終えた。
私は携帯をテーブルに置き、再び目の前のパネルに専念した。
電話してきた友人は、雑貨の小売店と契約して、自作のポストカードを販売している。
私も、描いたイラストをその子にポストカードにしてもらっては、利益の一部をもらったりしている。
と言っても、微々たるものだけど。
地方育ちの私は10代のうちに家族と遠く離れて東京に出るなんて考えられなくて、けど絵を描くのが好きだったので、地元の美大に入った。
就職は東京でと思い、クリエイティブの職を探したものの、自分の考えがいかに甘かったかを痛感した。
雇用制度がある程度しっかりした大きな企業では、都内の名のある美大の卒業生しか採用されないといっていい。
地方の名もない美大なんて、美大のうちに入らない。
もちろん選ばなければ、職はある。
だけど自分もなんとか納得できて、親も安心する企業で、と最低限の要件を満たすには、肝心のクリエイティブという職種をあきらめるほかなかった。
ある程度まで描き進めたところで、そろそろ寝ようか思案する。
あと一時間だけ描こうと決めて、筆洗の水を新しくするため流しへ立った。
毎回、イラストを受け取りに行くたび私が見とれるので、ある時、彼があきれたようにそう訊いた。
はい、と正直に答えると、葉さんはつまらなそうに、そう、とだけ言って。
それまで玄関先だった受け渡しを、アトリエでしてくれるようになった。
『朋枝のイラスト好評だよ、来月あたり、またお願いしていい?』
「ほんと、ぜひ描かせて」
お風呂に長めに浸かった後、大学時代からの友人から電話がかかってきた。
ひざに置いたパネルの上で絵筆を遊ばせつつ、あいた手で携帯を握る。
『よろしく、詳細決まったらメールするね』
「うん」
おやすみ、と言い合って電話を終えた。
私は携帯をテーブルに置き、再び目の前のパネルに専念した。
電話してきた友人は、雑貨の小売店と契約して、自作のポストカードを販売している。
私も、描いたイラストをその子にポストカードにしてもらっては、利益の一部をもらったりしている。
と言っても、微々たるものだけど。
地方育ちの私は10代のうちに家族と遠く離れて東京に出るなんて考えられなくて、けど絵を描くのが好きだったので、地元の美大に入った。
就職は東京でと思い、クリエイティブの職を探したものの、自分の考えがいかに甘かったかを痛感した。
雇用制度がある程度しっかりした大きな企業では、都内の名のある美大の卒業生しか採用されないといっていい。
地方の名もない美大なんて、美大のうちに入らない。
もちろん選ばなければ、職はある。
だけど自分もなんとか納得できて、親も安心する企業で、と最低限の要件を満たすには、肝心のクリエイティブという職種をあきらめるほかなかった。
ある程度まで描き進めたところで、そろそろ寝ようか思案する。
あと一時間だけ描こうと決めて、筆洗の水を新しくするため流しへ立った。