グリッタリング・グリーン
「ありがとな、うちのバカ息子をよろしく頼むぜ」
「また驚かせて悪いね、生方、仕事に戻っていいよ」
部長がすまなそうに微笑んでドアを閉める直前、聖木氏が話すのが耳に入る。
「いいなあの子、前の姉ちゃんより全然俺好みだぜ」
「お前がそうやって首を突っこむから、葉が嫌がるんだ」
「嫌がるから突っこんでるに決まってんじゃねえか」
最後のほうは、ドアが閉まってしまったため、よく聞こえなかった。
ふたりが話しているのが、ガラス越しに見える。
聖木氏は、ちょうど身長が葉さんくらいなので、遠目に見ると、まるで葉さんと部長がいるみたいだと気がついた。
身体のバランスというか、遠目の雰囲気が、葉さんとお父さんは、よく似てる。
お父さんのほうが、がっちりと筋肉質だけど、きっと骨格が近いんだろう。
やっぱり親子だな、なんて考えながら、自分が、一番気になることから目をそむけていることは、わかっていた。
この間も葉さんのお父さんが、ぽろっとこぼしてた。
葉さんの“前の人”。
葉さんは、なんていうか、ああいう感じの人なので。
あんまりこれまでも、恋愛とか、そんなに興味なかったんだろうなと勝手に思ってた。
別に、前に彼女がいたって、全然いいんだけど。
ただなんとなく、意外というか、予想外で。
そんな葉さん、想像できなくて。
どう受けとめたらいいのか、ちょっとわからない。
チョコレートの消費期限が来てしまった。
そこそこいいものを選んだのが災いして、3週間ももたなかった。
渡せなかった日、仕方なく家に持ち帰って、小物を飾っている棚に置いておいて、そのまま。
捨てるなんてとてもできないけど、ただ自分で食べるのも、それはそれでむなしい。
釈然としない気持ちでラッピングをはがしながら、そうだと思いついた。
刻んでお菓子に使っちゃおう。