グリッタリング・グリーン
思い立ったがなんとやらで、夜の12時前なのも気にせずに大きめのボウルをとり出した。

プラスチックの小さなまな板も出して、チョコをそこにあける。


流しは狭いので、こういうのはいつも、部屋のテーブルでやってしまう。

ここならテレビも見ながら作業できる。

粗く刻んで、明日の朝ごはん用にもなる、チョコチャンクスコーンをつくることに決めた。


ボウルの中で、よく冷えたバターと小麦粉をすりあわせながら、葉さんのことを考えた。

するとあらためて少し、悲しくなった。


私なりに、真剣に選んだチョコだったんです、葉さん。

こんなに本気で選んだのは、もしかしたら初めてで。

中学生の頃、友達がバレンタインに告白するのを手伝うために、一緒に選んだ時以来ってくらい。


ドキドキしながら選んだんです。


有塩バターを使って、さらにほんの少し、塩を足した。

チョコの甘さが、引き立つように。

だけど甘いだけのスコーンに、ならないように。


葉さんみたいだと思った。

辛いんだか甘いんだか。


いつも会うまで、わからない。






「朋枝ちゃん、電話」

「はい」



夕食を軽く外で食べて戻ったところだった私は、慌ててデスクに走った。

おなじみの印刷会社の営業さんだった。



『色校正がもうすぐ上がりそうなんです、明日お持ちする予定でしたが、もしお急ぎならと思って』

「えっ、ちょっとお待ちください」



受話器を肩に挟んで手帳をめくる。

明日、ちょうど午後イチに出版社との打ちあわせがある。

今夜と明日の午前中でチェックして、持っていけばぴったりだ。

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