グリッタリング・グリーン
聖木氏の言葉に、返事に困った。

咎めるような部長の視線を、笑って受け流し、聖木氏が煙草に火をつける。

部長も一本とり出したところに、沙里さんが戻ってきた。



「オールグリーンよ」

「サンキュー」



親指を立てた沙里さんが、ちらりと部長を見る。

煙草をくわえた部長は、胸ポケットにしまいかけていた箱を振って、沙里さんに一本抜きとらせた。



「あなた、葉が今ジュネーブって知ってた?」

「知るわけねーだろ、聞いてねえのに」

「お前らが別居なんてしてるから、葉もいちいち二方向に連絡するのが面倒になるんだろ」

「一緒に暮らして喧嘩三昧より、よっぽどいいわよねえ」

「なあ」



気にする様子もない夫妻を前に、育児放棄だ、と葉さん本人が聞いたら激怒しそうなことを部長がつぶやく。

やがて三人は、私にはわからない誰かの話をしはじめ、その気心知れた様子は、いかにも仲よし三人組という感じだった。


蚊帳の外なのをいいことに、つい観察してしまう。

葉さんが言っていたとおり、部長は沙里さんを、好きなんだろうか。

沙里さんも部長を、待ってるんだろうか。


うーん、とひとりで首をひねった。

三人とも等しく仲がよさそうなので、そこまで読みとるには、私にはまだ修業が必要みたいだ。



「すみません、いいですか」



そこへ、髪をひとつに結んだ男の人がやってきた。

聖木氏が、おうと振り向く。



「意見が欲しくて。彼女、僕らの班に入ってもらっていいですよね?」



返事するより先に、来て来て、と引っ張っていかれた。

その先では、あー助かったーと口々に、私を新たな戦力と信じて疑わない様子の声があがり。


私はそこで、ようやく。

これから何かを生み出すんだという、武者震いにも似た緊張と、高揚感に包まれた。



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