グリッタリング・グリーン
電話でですか、とか。

そんな、話のついでみたいに、とか。


そんなこと全然、思わなかった。

そのくらい、好きって言葉には、力がある。

耳に飛びこんできた瞬間、身体中で跳ね回って心をふくらます、パワーがある。



「…あの、葉さん、私、私も」

『あっ、おい!』



突然、何か大きなものが崩れるような音と、おどけた悲鳴と、笑い声がした。

それから、バカ! 的な意味であろう葉さんの罵り声。



『ごめん、行かないと』

「あっ、あの、葉さんの今回のお仕事、どんななのか見たいです、またご連絡…」

『見られるよ、カメラが入るから。日本だとCSだったかなあ』

「え?」



…TVカメラが入って、海外で放映されるイベント?

って、相当大きいんじゃない?



「すみません、今さらなんですが、どんなお仕事ですか」

『芸術祭だよ、賞の授与式を兼ねた、地域をあげてのフェスタ』



前年の受賞者が、無償で作品を提供するのがならわしなんだと説明してくれる。

受賞者、ジュネーブ…エキシビション。



(──国際文化賞か!)



広告でも美術でも、クリエイティブとくくれるものに携わる人で、知らない人はいない、世界的な賞だ。

そういえば葉さんの受賞歴にも、あった。



『やっぱりフェアなお国柄だよね、自国の受賞者、30年くらい出てないのに、この祭りっぷり』

「そうなんですか…」



上の空で返事をした。

じゃあね、と今度こそ葉さんが言う。



『おやすみ、起こしてごめん』

「あの、日本に戻られたら、またお電話ください」

『え、戻る前にもすると思う』



かなり慌てていたらしく、返事を待たずにあっさり電話は切れた。

少しの間にすっかり熱くなった携帯を握って、ぼんやりと考えた。


葉さん、私、私もね。

なんて。


続きを言う機会がなくて、よかった。



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