グリッタリング・グリーン
「ようやくあったかくなってきたねー」
「長い冬でしたね」
4月というのに、本格的なコートを手放せない日が続いていた中、ようやく春らしさがやってきた。
お昼をとりに外へ出た私と未希さんは、示しあわせたみたいに伸びをして、笑った。
「どうよ、聖木慧氏の仕事」
「面白いです、すごく細かいプログラム制御と、手作業の組みあわせで、なんだかシュールで」
「インポートブランドのプロモーションだよね?」
「はい、今改装してる銀座のビル、あれのリニューアルのPRを兼ねて、フラグシップストアでインスタをやるんです」
「うっわ、話題になりそう」
ですねえ、とお店を探しながら同意した。
ただでさえ聖木氏のやることはすぐ話題になるのに、久しぶりに彼が手がけるインスタレーションとなれば、なおさらだろう。
綺麗に晴れあがった空に、飛行機が飛んでいた。
音が全然違う方角から響いてくる。
「未希さんて、海外行ったことあります?」
「ハワイと韓国なら何度か、なんで?」
いえ、と首を振った。
私は飛行機に乗ったことすら、1回しかない。
卒業旅行で、沖縄に行った時だ。
「そういえば、クリエイティブの人が、これ描いたの誰って訊きに来たよ、ほら、あの冊子」
「うえっ」
「何、うえって、好印象だったよ、こんなの描く子、社内にいたんだねって感じで」
そうですか、と汗をかきながら応じた。
いまだに自分の絵が、そんなふうに取り沙汰されることに慣れない。
小さいなあ、と感じた。
未熟だなあ、私。
葉さんがスイスに行くと聞いた時から、何か感じていたムズムズの正体が、わかった気がする。
葉さん、私ね。
あなたとはやっぱり、住む世界が違うんじゃないかって。
今ごろ、思ってます。