グリッタリング・グリーン
「何やってんの」
カフェを出たところで、聞き覚えのある声に呼びとめられた。
飲みかけのラテをあおっていた私は、お天気の寒空に湯気を吐き出しながら、声のしたほうを見る。
思ったより近くに葉さんはいた。
やっぱりデニムと、黒いシャツの上にダウンをはおって、でもさすがにスニーカーは履いている。
ポケットに手を突っ込んで、白い息を吐いて首をかしげている彼は、155センチないくらいの私を少し上から見おろしていて、あれっこの人意外と普通に身長あるんだな、と気がついた。
「何センチですか?」
「何が?」
冷たい視線に射られながら、すみません身長です…とうつむいて謝った。
挨拶もせずに、いきなり身長を訊く奴があるか、バカ。
「170だけど。もっと小さいと思ってた?」
ぶっきらぼうな返事は、似たようなことを言われ慣れているせいだろう。
思ってました、とは口に出せず、今さらこんにちはとか言ってもごまかせないかなあ…と考えていると、突然左手をつかまれて、ぐいと顔の前に持っていかれた。
カップを落としそうになって、慌てて右手で持ち直す。
「あの…」
「これ、生方が描いたの」
あ。
左手をまじまじと見られて、頬が染まる。
お昼を食べながら思いついたフレームの図案を、ペンで手に描きとめておいたのだ。
ツタと雲をモチーフに、手の甲の、親指と人差し指のつけねあたりから始まって、手のひらのほうまでかなり派手に。
そんな子供みたいな落書きを、プロである葉さんに見られるのは相当に恥ずかしい。
放してほしくて手を引いたら、予想に反してあっさり解放された。
はずみで後ろに一歩下がると、反応したカフェの自動ドアが開いて、ぴんぽんと音が鳴る。
お店の真ん前にいたことに気がついて、私は慌てて横によけた。
そんなこと気にもならないらしい葉さんは、ジーンズの後ろポケットからメモ帳とボールペンを取り出すと、私に突きつけた。
「描いて」
「え」
「なんでもいいから。好きなもの」