グリッタリング・グリーン
「やったな葉の奴、あれは大成功だろ、慧の名前が出た時はひやっとしたけど」
「あの子ももう、子供じゃないもの、心得てるわよ」
沙里さんの笑い声には、誇らしげな響きがまざっている。
見守る部長の視線は、優しい。
デニムにざっくりしたニットというカジュアルな装いの沙里さんは、ますます葉さんに似ている。
葉さんより少し長いくらいの、ミディアムショートの髪が華奢な体格によく似合っていて、すごく色っぽい。
聖木氏のアトリエで、ケータリングの夜食を囲みながら、相変わらず仲のよいふたりを見た。
話題はもっぱら、ゆうべ放送された授賞式だ。
葉さんは会場全体のライティングと、オープニングのひと幕の演出を受け持っていた。
「葉はけっこう、素直なロマンチストなんだな」
「そうよ、時代や嗜好を超えて美しいとされるものが好きだし、そういうものを見せようとしてくれるの」
「そのくせ手法自体は、流行りど真ん中を持ってくるんだからなあ」
葉さんが見せてくれたのは、パントマイムとプロジェクションマッピングを組みあわせたパフォーマンスだ。
プロジェクションマッピングというのは、建物とかオブジェとか、そういうものに映像を投影する手法で。
葉さんは、ひとりの男性とマネキンと、ステージそのものをカンバスに、スイスの美しい風景と芸術の歴史を、流れるように描き。
時折、どちらがマネキンだかわからなくなったりする、精度の高いマッピングと映像のセンスに、会場は熱狂した。
「慧は見たかな、メールしたんだけど」
どうかしら、と沙里さんが首をかしげたところに、当の聖木氏がホットドッグ片手にやってきた。
「加塚ぁ、お前の紹介してくれたとこ、いいわ、頼む」
「了解、明日もう一度打ちあわせて、すぐ始めよう、沙里も同席するか?」
「行くわ、ねえあなた、葉のエキシビ、見たでしょうね」
「見たよ、ブロンド美人にハグられてデレデレしてたやつだろ」
「いらん誇張をするな」
部長が私を気遣うようにたしなめる。
三人と目が合ってしまい、私は意味もなく、ふるふると首を振った。