グリッタリング・グリーン
5月もなかばに入った。

ああいうイベントは、終わったあとがまた忙しいのよね、と沙里さんは私に向かって困り顔をした。



「コレクターとか、業界の人とかがね、やれうちのパーティに来いとか誰それを紹介するとか、押し寄せるわけ」

「んなもん、興味がなけりゃトンズラこきゃいいんだよ」

「誰もがそれで通用すると思わないでちょうだい、葉はこれからコネクションを築いてくんだから」

「じゃあ、帰国はまだ先でしょうか…」



たぶんねえ、と沙里さんが腕を組んだ、その翌日。

葉さんは突然、現れたのだった。






『今どこ?』

「えっ?」



携帯を片手に洗濯物を干していた私は、ベランダです、とあとから考えると間抜けな返答をした。



『家ってこと?』

「はい」

『今日、土曜だよね、休みだよね? 出てこられる?』

「スイスにですか?」



今から?

よく用件がわからず、右手だけでタオルを物干しにかけながら答えると、葉さんがちょっと黙る。



『俺、今、東京なんだけど』



えっ!






「スイスに呼ぶわけ、ないだろ」

「帰ってきてると思うわけ、ないじゃないですか…」

「なんでだよ、俺の携帯からかけたのに」



言われてみれば、着信は久しぶりに葉さん自身の携帯番号を知らせてきていた。

でもそんなので、あっ日本にいるんだな、なんてとっさに気がつくわけがない。



「帰国日が決まったら教えてくださいねって、言ったでしょう」

「思い立って飛び出してきたんだ、ここらで切りあげないと、ずるずるいちゃう気がして、はいお土産」


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